④【夢組】
真緒の前に集結した七人を見て「ふんっ」と、余裕の鼻鳴らしをする血姫の果実。
「集まったなザコども、さあっどうする? この姿のあたしを倒せるか! あははははっ」
哄笑する血姫に向かって、荒船・ガーネットの粘着捕獲クモ糸が投げつけられ。
血姫の体と、ついでに血姫の手から落ちたビッグヌイグルミも捕らえられた。
「な、なんだ!? この粘着質なクモ糸は? きっ、切れない」
クモの牙を動かしながら、放ったクモ糸を締めつける荒船・ガーネット。
「わたしに、本気の捕獲糸を出させましたね……少し、我々を甘く見ていませんか」
もがく血姫に近づいた、人間形態にもどった瑠璃子が、お尻を向けて言った。
「逃げようとしたら屁ぇ、顔に浴びせちゃいますよ……あたしのオナラ、強烈に臭いですよ」
微笑みながらも、瑠璃子の目は凄んでいた。
血姫は、短い悲鳴を発して観念した。
「ひっ!」
クモ糸に巻かれたまま、魔王城に連れてこられた血姫は、部屋で椅子ごとクモ糸で縛りつけられていた。
城には、荒船・ガーネット、瑠璃子、海斗、満丸、桜菓、緋色、包帯ミイラの狂介、そして魔王真緒がいた。
血姫が言った。
「あたしを捕らえてどうするつもりだ、この体は今はあたしのモノだ……夢の世界に暗闇果実の心は現実逃避だ……いずれは夢の世界から現実世界を浸透支配してやる、あははははっ」
血姫が言う通り、現実世界からはどうするコトもできなかった。
笑う血姫を見て、狂介を巻いている包帯の頭の部分をほどく緋色。
口と鼻と耳穴を開放されて、大きく息を吸い込む狂介。
「ぷはぁ、息苦しかった……あの、黒と赤の変なヤツは。オレの頭の中にまだ入ったままか?」
パートナーの緋色が答える。
「入っているよ、大事なコトを魔王真緒の伝えたいから、魔王城に連れていってくれって頼まれたから……狂介が暴れて逃げ出さないのと、体の穴から転げ出ないように、狂介を包帯ミイラにした」
「オレは運搬用に使うために、説明も無しにいきなり包帯縛りされたのか?」
「だって狂介、耳の穴から夢の世界の人が出てきた時、パニックになちゃってゴクドーブレードで暴れたから……ああでもしないと」
「あたり前だろう、あんなのが耳の中から出てきたら」
緋色は、床に包帯座りした狂介の側頭を軽く叩く。
「言われた通り、真緒くんのところに運んできたよ、目の前に真緒くんいるよ……出ておいで」
狂介の頭の中から、ムニウゥと七色夢太郎が出てきて、真緒に挨拶した。
「やあっ、真緒くん……現実世界で会うのは初めてだね」
親しそうに夢太郎の手を握るマオマオ。
「夢太郎くん、いつもボクの狐狸姫の楽しい夢を守ってくれてありがとう……毎晩、夢で狐狸姫に会えて最高だよ」
「ボクの方こそ、小さい時から仲良くしてくれて感謝しているよ」
挙手をした瑠璃子が、真緒と夢太郎の会話に割り込む。
「すみません真緒さま、お二人の会話の中に少々気になる箇所があったのですが……真緒さまは夢の中でも好きなアニメの夢を頻繁に?」
「うん、ほぼ毎晩、楽しい夢を見させてもらっているよ」
「そ、そうですか」
瑠璃子は、それ以上詮索するのをやめた。
夢太郎が言った。
「真緒くん、夢の世界と現実世界の境界線が大変なコトになっている。このままだと、現実世界と夢世界のが混ざりあってカオスな世界になる……力を貸して」
夢太郎は、暗闇果実の心が夢の世界に閉ざされ、現実世界の肉体が夢世界住人の鬼天河血姫に奪われたコトの危険性を真緒に告げた。
「今、どんどん現実世界の肉体が夢世界の夢鬼や夢天狗や夢河童に奪われて、虚実のバランスが狂いはじめている……このままだと、夢世界と現実世界の境界線が破壊されて、夢か現実か判断できない世界が誕生する」
「それって、そんなに大変なコトなの?」
「大問題だよ、夢世界と現実世界の危機だよ……特異点〔シンギュラリティ〕を生み出しているのは、夢に引きこもった果実ちゃんだよ……なんとか、彼女を現実世界に引きもどさないと」
夢太郎の言葉を聞いた、血姫の果実が高らかに笑い出した。
「あははははっ、ムリムリ。夢領域にも同一のあたしがいて黒い夢羊たちを操って進攻しているんだよ……現実世界と夢の世界の壁が破壊されるのも時間の問題、現実世界のあんたたちに打つ手はないよ……あはははっ! 大人しく世界がカオス化していく光景を見ていな」
高笑いをする血姫の果実に向かって、鉛谷ズ子の声が天井近くの換気口から聞こえてきた。
「気に入らないでチュね……あたいが、人間どもの心を腐らせる前にそんなコトをされたら」
換気口の金属カバーを蹴り破って、青い星形悪魔インディゴと白衣コートをまとった鉛谷ズ子が換気口から出てきた。
ベチャと床に落下するヒトデ型の一つ目悪魔、
眼球を床に強打したインディゴがのたうち回る。
「ぐあぁぁ! 目がぁ! 目があぁ!」
機械のメンテナンスに協力してくれた、インディゴを無視してズ子はしゃべる。
「ホコリを被って物置に長い間放置されていた、夢の世界へ入れるマシン……なんとか、使えるように調整終わったでチュ、劣化して交換が必要だった部品は百円ショップで調達したでチュ」
ズ子の言葉を聞いた、血姫の顔色が変わる。
「夢の世界に入れるマシンだと!?」
荒船・ガーネットが一歩進み出て言った。
「説明しましょう……過去にも、夢世界から現実世界への、黒い夢羊たちの侵攻計画が行われました……その時に、魔王さまが仲間を集めて夢の世界に入るために【亜区野組織】の科学力で作った、夢の世界へ入る機械です……黒い夢羊たちを退けるために、一回だけ使われました」
真緒が少し驚いた口調で言った。
「ボクのお父さんが、そんなコトを……じゃあ、その時に夢の世界へ行ったメンバーを集めれば」
「真緒さま、それはムリでございます……今は居ない者もいれば、離れた場所に居る者もいます……新たな夢の世界へ行くメンバーを選出しなければ」
「どうやって選ぶの?」
今度は額に中華呪符をヒラヒラさせた、巫女っぽいミニ丈スカートの格好に魔女帽子を被った、桜菓がタブレットを片手に進み出てきて言った。
「メンバーの選出は、魔術Aiで選んである……このメンバーなら、夢の世界からの侵攻を阻止できる……この部屋には選出されたメンバーが二人居る、一人は魔王の息子──魔王真緒、もう一人は灰鷹満丸」
自分の名前を呼ばれて驚く満丸。
「ボクなんかよりも、もっと強い人の方が」
「今回のミッションは、能力が強力すぎる者は、暗闇果実の夢も壊してしまう恐れがあるから……魔術Aiは、バランスを考えたメンバーを選出した」
真緒が桜菓に訊ねる。
「他のメンバーは?」
「ショッキング・パパ、黒金のビスマス、天龍空彦……そして、この二人」
桜菓はタブレットの画面を真緒の方に向けて、夢太郎を除いた、現実世界から夢世界へ向かう【夢組】七人のメンバー名を見せた。
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