③ 【金城ミノス】登場
真緒が、刀剣親父を引きずり去っていく狂介の後ろ姿を眺めていると、ある人物が真緒に話しかけてきた。
「探したわよ、真緒……思っていたよりも行動範囲が広いのね」
振り返ると、アンドロイドのようなツンツン口調の見知らぬ女と。
木の杖をついた、長い白髭の老人が並んで立っていた。
編んだ手提げカゴを持った老人が言った。
「真緒さま、儂が誰だかわかりますかな?」
アロハシャツを着て片足を植木鉢に突っ込んだ、老人が持っている木の杖に真緒は見覚えがあった。
「もしかして、魔王城の敷地内で未確認生物が集まる優魔森の中にある、優魔村のマンドラゴラ長老さん?」
「はい、瑠璃子さんと真緒さまには優魔の者たちが、日々お世話になっております」
真緒は長老と並んで立っている、見なれない女性を凝視する。
片方の頬に金色の奇妙な古代文字が描かれていて、なぜか頭に魚が突き刺さっていた。
真緒は、女性の頬に描かれている紋様に、どこか見覚えがあったが……どうしても思い出せなかった。
「えーと、君は?」
ツンツン口調で、
「まだ、わからないの……それも、仕方がないわね。ずっと机の引き出しの隅に放置されていたから……ヒントだけあげる、真緒は小学校の時、教室の机をあたしの体で真っ二つに切断した」
海斗が、わかったという仕種をする。
「もしかして、真緒が母親の土産でもらった。あの古代文字が描かれた小刀か!? 未確認生物を探しに入った洞窟の石祭壇に、刺さっていたのを母親が持ち帰ったって真緒が話していた!?」
「当たりよ、持ち主の真緒より先に当てられちゃったわね……とりあえず『金城ミノス』とでも名乗っておくわ」
ミノスに真緒が質問する。
「金城さんも、擬人化光線でその姿に……頭に刺さっている魚は?」
「みたいね、頭の魚は気づいたら刺さっている、その時々で、魚の骨だったり、鳥の骨だったり、鳥が巣を作っているコトもあるわ……過去の封印したい黒歴史に、生け贄の腹をさばいていた歴史があるから、そのせいじゃないの……あたしも、擬人化捜査に協力させてもらうわ」
擬人化した優魔の長老が言った。
「それでは、儂は擬人化した優魔の未確認生物たちを見つけて、魔王城にもどるように説得しますので、ここから別行動を……真緒さまにこれを、優魔の山で掘り出してきた『ヤマスズメのハマグリ』ですじゃ」
長老が差し出したカゴの中には、泥がついたハマグリがチュンチュン鳴きながら入っていた。
「山でハマグリが採れるの? 普通は海で採れるんじゃないの?」
「優魔のスズメは海に入ってハマグリになりますが、山スズメは土の中に潜ってハマグリに変わりますのじゃ……海スズメが変化したハマグリより、山スズメのハマグリの方が味は濃厚ですじゃ」
「そうなんだ、ありがとう、山の焼きハマグリにして美味しくいただくよ」
真緒にカゴを手渡した長老が言った。
「優魔の中には、人間の姿になってハメを外している者も……」
長老は歩道で、エジプトの猫神。バステト神の猫耳コスプレをして撮影会をしている、スレンダーボディな成人女性の『ワンパスキャット』や。
その近くで、路上ラップをしている擬人化したカエル男『ラブランド・フロッグ』を見た。
「よーっ、よーっ、擬人化してもオレの顔は、カエルっぽい顔だよーっ、普通にいるカエル顔人間だよーっ」
真緒が春髷市内で擬人化した者たちを調査して、魔王城に帰ってくると。
作業部屋で擬人化解除装置の、外装溶接をしているズ子が真緒に言った。
「ずいぶんと、いろいろなモノが擬人化して混乱しているみたいでチュウね……あたいの方にも、器物の擬人化が報告されているでチュウ……まるで付喪神〔つくもがみ〕の百鬼夜行でチュね」
「ボクたちも、市内で恐竜とかドラゴンが擬人化した姿を見たよ──頭蓋骨が厚い恐竜の『パキケファロサウルス』が擬人化したプロレスラーみたいな人が、壁に向かって何度も頭突きをしているのを見た」
「メチャクチャでチュウね……一刻も早く、この擬人化解除装置を完成させるでチュウ。
当初の計画ではもっと控えめな擬人化で、人間どもをパニックのズンズンドコに落とす計画だったでチュウ、これは大誤算でチュ」
アーク溶接の遮光マスクを被って、溶接の火花を飛ばしているズ子に真緒がポツリと言った。
「ズ子さんて擬人化すると美人だね」
溶接を続けながらズ子が答える。
「いきなり、なんでチュか。おだてても何も出ないでチュよ」
「前々から聞きたいと思っていたけれどズ子さんって、どうして人間の心を腐らせようと思ったの? 言いたくなかったら、言わなくてもいいけれど」
「そうでチュウね……魔王城の部屋もこうして使わせてもらっているから、魔王の息子には話しておいてもいいでチュウね……」
ズ子は自分が人間に嫌悪を抱いている理由を語りはじめた。
「あたいは、ドブネズミの王と妃に育てられたハムスターでチュウ」
「下水道にある、黄金に輝くネズミの国だっけ……確か名前は」
「黄金都市『ネズドラド』でチュウ……そこで、ある日。育ての親の王妃……母上が病気になったでチュウ、あたいは母上の病を治してもらうため、下水道に往診してくれる人間の名医を探しに人間の街をさ迷ったでチュウ……嵐の中を濡れネズミになりながら」
ズ子の話しは続く。
「あたいは、街の軒下にたむろしていた数人の若者に、ネズドラドから持ち出した金の塊を見せて『下水道に往診に来てくれる人間の名医を、ココに連れてきて欲しいでチュウ』と、真剣に頼んだでチュウ。若者たちは笑いながら連れてくると約束して金塊を受け取ったでチュウ──あたいは、雨風の中で震えながら、人間の言葉を信じて待ち続けたでチュウ」
溶接を中断したズ子は、遮光マスクを上げてペットボトルに入ったミネラルウォーターを飲んでから話しをさらに続けた。
「いくら待っても医者はこなかった……あたいは、金塊を渡した人間たちを探して、見つけたでチュウ……連中は金塊を換金してファストフード店で笑いながら、メシを食っていたでチュウ!!」
ズ子は怒りにペットボトルを、人間の手で握りつぶす。
「人間の心は腐っているでチュウ……だから、もっと腐らせてやると誓ったでチュウ」
「ファストフード店にいた連中はどうなったの?」
「ちゃんと報復したでチュウ、二度とウソがつけない正直者に人格変換してやったでチュウ……ざまぁみろでチュウ。まぁ、母上は単なる食べ過ぎで元気になりまチュたけれど」
怒りが鎮まったズ子はヒマワリの種子をポリポリ食べながら、真緒を見て言った。
「魔王の息子のあんたを見ていると、心を腐らせる気にはならないでチュウね……あんたは、今のままでいいでチュ」
その時、慌てた様子で瑠璃子が作業部屋に飛び込んできて言った。
「真緒さま! 荒船さんが言った通り、あの抱き枕しゃべります!? あの枕は真緒さまにとって危険です! 処分してください!!」
瑠璃子の言葉を聞いたズ子は。
「『具現化光線』の影響は、魔王の息子が愛用する抱き枕に宿っていまチュたか──どうせ、今日の日没までの効力でチュね……あと、数時間で普通の抱き枕にもどりまチュ」
そう言って溶接を再開した。
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