② 擬人化・擬人化・擬人化


 数十分後──真緒は、海斗、果実、満丸たちと一緒に春髷市内で擬人化した者たちを探していた──魔王城で解除装置の製作をはじめたズ子が、真緒に言った。


「擬人化した者たちを把握しておく必要があるでチュ……特に擬人化した巨大ロボットと巨大怪獣は要チェックでチュ……建物中でロボットと怪獣の擬人化解除したら、大変なコトになるでチュから……

魔王城内でも星形悪魔以外に、擬人化した者がいて擬人化探しの協力を申し出てきたでチュ……遅れて魔王の息子と合流するそうでチュ……女でチュよ」

 ズ子の言葉を受けて、真緒たちは擬人化人物の探しに街に出た。


 歩きながら海斗が真緒に質問する。

「なぁ、真緒……擬人化した人間って、どこで見分けるんだ?」

「わかんない……でも、雰囲気でそれとなく、わかるんじゃないかな。満丸くん記録お願い」

 狐狸姫のメモ張と筆記具を持った、満丸が言った。

「任せて……狐狸姫のメモ張に、発見した擬人化人間どんどんメモっちゃうから」


 真緒たちが擬人化した人間を探して歩き回っていると、路上でヤンキー座りをしていた。赤いツッバリ髪の男が真緒に話しかけてきた。

「よっ、魔王の息子──国防のやつら、こんな低い目線で世の中を見ていたんだな」

 腹にサラシを巻いて、赤い特効服に腕を通した男は、サラシを巻いた腹をさすりながら立ち上がって舌打ちする。

「チッ、腹からミサイルでやしねぇ……眼光鋭くても、目からビームも出ねぇ。腕も飛ばねぇ、不便な体だな」

 真緒が赤い髪の男に言った。

「もしかして、『暁のビネガロン』?」

「当たりだ、変な光線浴びたら。この姿になっちまった……腹かっさばいても、出るのはミサイルじゃなくて別のモノが出そうだな……腸とか胃袋とか」

 その時、人間体のビネガロンに背後から嬉しそうに抱きついてきた、青い服の少女がいた。

「ビネガロン、めっけ♪」

 擬人化した『紺碧のテイルレス』の強烈なバックハグに、ビネガロンの背骨からベキッベキッと音が響く。

「ぐあぁぁぁ!? テイルレスかぁ!! 離れろ! テイルレス!」

 ビネガロンを地獄のハグから解放した、テイルレスは今度は自分の胸をビネガロンの顔にグイグイと押し当てながら言った。

「オッパイ飛ばない、大きくならない、デルタブーメラン取り外しできない」

 乳房を顔に押し当ててられている、ビネガロンが怒鳴る。

「ぐふっ、当たり前だ! 人間の乳がミサイルみたいに飛ぶか!」 

 ビネガロンが、テイルレスの胸責めを受けていると。今度は緑色の作業ツナギを着て、頭にパーティーグッズの三角帽子を被った若い女性がキョロキョロしながら、やって来て。

 見つけたビネガロンに近づいて言った。

「ビネガロン? ダメじゃないの、人様に迷惑かけていないで……えっ!? 真緒さま、いやだぁ、あたし真緒さまの前でスッピン」

「もしかして、亜区野組織の巨大ロボット『緑嬢ライム』さん?」

「はい、こんな対等の視線で、真緒さまと向かい合って会話する日が来るなんて」 

 ビネガロンの姉ロボットで亜区野組織に所属する機械友の、緑嬢〔ろくじょう〕ライムはツナギの大腿に両手を添えてお辞儀する。

 ライムが言った。

「あちらには、人間の姿になった『スカルオカンW2』さんが、子供たちを連れて買い物していますよ」

 ライムが示した青果店の店先では、赤と白のツートーンカラーのエプロンをして、顔面をドクロにフェイスペインティングしたオカン風の女性が買い物カゴを提げて、青果店の主人と値引き交渉をしていた。

「もっと野菜、安くしなさいよ……ゴメンナサイネ、ゴメンナサイネ」

 スカルオカンの近くには、母親と同じように顔をドクロペインティングした悪ガキ三人がふざけあっていた。

 緑嬢ライムの胸元から腹部にかけて、回転方向が別々にノコギリ歯が現れて回転しはじめたのを見た、ビネガロンが驚きの声を発する。

「なんで、姉貴だけ体から回転ノコギリが出てくるんだよ?」

「あたしにも、よくわからない……木材とかを切断するためじゃない?」

 真緒たちは、擬人化した巨大ロボットたちから離れて別の擬人化人間を探しはじめた。


 駅前のロータリー広場に向かう途中で、段ボールで作った蝶の羽を背中に付けた、赤い服の小学生低学年くらいの男の子が。

「ハネーッ!」と、言いながら横を通りすぎていった。

 果実がポツリと言った。

「今のは、小型飛行怪獣の『ハネラーちゃん』……あんな小型怪獣まで擬人化しているなんて」

 真緒たちは、駅前の広場にやって来た。その場所はカップルがよく待ち合わせに利用している場所だった。

 石の上に座って書物を読んでいた、青い服のインテリ眼鏡男性が真緒を見て言った。

「おや、魔王の息子──いつも、ガニィ星人の姉妹が迷惑をかけています」

「えーと、侵略宇宙怪獣の『ウツボギラス・シアン』さんかな? 今日はデートの待ち合わせ?」

 シアンは眼鏡を軽く押さえる。なぜか、シアンの頭上にだけ小さな雲が浮かび霧雨が降っている。

「ええ、どうせこの姿になったなら、人間目線の場所で待ち合わせをしてみたいので……いつもは、破壊する建造物前での待ち合わせなんですが。彼女がこの姿を見て、わたしだと気づいてくれるかどうか」

 真緒とシアンがそんな会話をしていると、赤っぽい髪を左右で束ね、赤っぽい服とポシェットを提げた可愛らしい少女がやって来て、キョロキョロしながら誰かを探しているのが見えた。

 やがて少女は、シアンに近づくと遠慮気味に擬人化した侵略怪獣に訊ねる。

「あのぅ……もしかしたら、シアンさんですか?」

「そうです、マゼンタ怪獣のラッコ美さんですか?」

 亜区野組織に所属する

晴れ怪獣『ラッコゴン・マゼンタ』のラッコ美が、ぴょこんと頭を下げる小さなプラズマ太陽がラッコ美の体から飛び出した。

 ラッコ美がシアンに言った。

「この姿でお会いするのは初めてでしたね……あらためて、晴れ怪獣のラッコ美です……あっ! 真緒さま、人間の姿で、初めましてラッコ美です」

「こんにちは、ラッコ美さん……今日はシアンさんとデート?」

「はい『地球・異次元・宇宙怪獣・三大怪獣大恋戦』と、いう怪獣ラブストーリー映画を一緒に観に行く約束を……あっ、シアンさん上映時間が」

「そうだった、それじゃあ行こうか……宇宙怪獣と異次元怪獣のラブストーリー映画を観に」

「では、真緒さま失礼します」

 擬人化した怪獣カッブルが待ち合わせて場所から去っていくと、黄色い服を着た男がトボトボと公園に向かって歩きながら。

「虚しい……はぁ」と、タメ息を漏らした。

 歩いていく、黄色い服の男の背中を見ながら海斗が。

「アレは地底怪獣の『スッポンドン』だな」

 と、言った。 


 春髷市内の擬人化した者たちが次々と、真緒たちの前に現れる。

 緑色とオレンジ色の迷彩服を着てヘルメットを被った男『怪人ヒーロー・モリブデン』が乗った黒い自転車の後ろから。

 黄色い服を着て内股でなよなよした男『疾風の黄砂』が。

「モリブデンさまぁ、待ってぇ」

 と言いながら追いかけていたり。


 白い服で髪の毛ボサボサの男、白骨走行マシン『河骨』が。ガリガリに痩せて頬がコケた白い服の半月型サングラス男、白骨機体のロボット『オレ・グロイゼ』と仲良く肩を組んで歩いていたりした。

 果実が呟く。

「春髷市内に、擬人化した者たちだらけ……まだまだ、いるんじゃない」


 真緒の背後から、極神狂介の悲鳴に近い声が聞こえてきた。

「おい、魔王の息子! このしがみついてくる親父をなんとかしてくれぇ! いったいこの親父なんなんだ?」

 見ると、腹巻きをしてステテコを穿いた冴えない親父にしがみつかれた、極神狂介が親父の顔を手で押して必死に親父から離れようとしていた。

 頭が薄いステテコ親父は「うへへへ……父ちゃん」と言いながら、狂介に体をすり寄せてくる。

「おまえなんか知らねぇ! オレに子供はいねぇ!」 

 真緒が言った。

「たぶん、その人……擬人化した『ゴンドーブレード』だよ」

「なにぃ? 刀剣親父だと、オレのゴンドーブレードの擬人化した姿が、こんな冴えない親父か!?」

 そこへ、未来風の服を着たニコニコ微笑む少女を連れた、緋色がやって来て狂介に言った。

「やっぱり、真緒くんと遊んでいた……帰るわよ狂介、店も変な客でいっぱいなんだから……客なのか、擬人化した皿とかコップなのか……とにかく大変なんだから」

 ニコニコ微笑む、銀色未来服の少女が緋色の足にしがみつく……どうやら彼女は、緋色の宇宙銃が擬人化した姿らしい。

「おい、待てよ緋色……このキモい親父をなんとかしてくれ」

 緋色が、擬人化宇宙銃少女を引きずりながら緋色軒にもどるのを、ゴンドーブレード親父にしがみつかれた狂介が追って去っていった。

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