第7話 家庭菜園の話

 子供の頃スイカを食べていた時、口に含んだスイカの種を庭へと吐き出していた。そうすればいつかスイカが成長して、またスイカが食べられるんじゃないかと思っていたからだ。

 当然それは他のフルーツの時にも試した。ブドウも、メロンも、食べるときに種が入っていたら軒並み我が家の庭へと放っていた。

 小学生の頃には親も微笑ましく見守っていたが、中学生にもなってやっていたら流石に怒られた。

 曰く、スイカの種をうちの庭に吐いたところでスイカは生らないのだそうだ。

 そうして気になった俺はどうすれば実がなるのかを学んだ、どのようにして良質な土を作り上げるのか、どうすれば家庭菜園の域でそこまでの物を作れるのか。俺は貪欲に学び続けたのだ。実家を出て、大学に進学してからも――。

「そうして遂に、俺は家庭菜園にて企業レベルの物を作り上げることに成功したのさ」

 自慢げに話す俺の目の前には、同じく子供の頃に並んでスイカの種を飛ばしていた幼馴染の悠希ゆきがいた。俺が長年努力をし続けていたのを知っていた彼女は、素直に驚いていた。

「まさか本当にやり遂げるとはねえ……、農学系の学校にも一切通っていないのに」

 そう、俺はこれまで夢を叶えるためにすべて独学でやってきたのだ。親からも進路について言われていたが、俺はこれをあくまで趣味としていたかったのだ。

「それでそれで!どんな感じなのさ、康太こうたの半生をかけて作った力作は!」

「ああ、柿の種を植えたんだ」

「柿かあ、桃栗三年柿八年なんて言うし、実が生るまでに随分かかったんじゃないの?」

「いや、一週間ほどで収穫できるようになったぞ?」

「え、どうなってんのそれ!?未来の農業じゃん……」

 困惑しているところ悪いが、そもそもの土台を勘違いしていることを正さなければな。

「俺が植えたのはの種ではない、だ」

「え、うん。の種でしょ?」

「違う、だ」

 この問答により悠希もようやく気付いたらしい。むしろ遅いくらいだがな。

「え、亀〇の?」

「〇田のだ」

「あれお菓子じゃん、何で?」

「生ってしまったものはしょうがないだろう」

 そもそもなんで植えちまったんだろうな、一年前の俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか。



「ほ、本当に生っているだなんて……」

 その後悠希を俺の家へと呼び、栽培に成功した柿の種を見せてやった。ちなみに柿の種の実は袋単位だ。けなげ組もきちんと印刷されている。

「これ実は何でも増やすことができる魔法の土、なんてオチは無いよね?」

「そう思って色々植えてみたが駄目だった、柿の種しか生えてこない」

 ドラ〇もんのようにはいかないな。

「それでも十分すごいような気がする……。フルーツとかは植えてないの?」

「言っただろうが、柿の種しか生えてこないんだ」

「この土無能じゃん。あんた十年近く努力続けて柿の種工場を自宅に作ったのかよ、普通に考えてそっちの方がすごいな!」

 しかもこれらは全て一週間クオリティだからな、我ながら大したものだ。

「まあ一袋摘まんでいけよ」

「あーうん、凄く違和感しかないけど食べてみるわ……」

 そう言うと彼女は目の前にあった実を一つちぎると封を開けて数粒口へと入れる。

「……美味しい、普通に柿の種だわ」

「そうなんだよ、普通に柿の種なんだよ。種は違うのにな」

「…………うん?」

 何だこいつ、また勘違いをしていたのか。しょうがない奴め。

「言ったはずだぞ、柿の種しか生えてこないと」

「え、あれって何植えても柿の種が生えてくるって事だったの!?もはやただのホラーじゃん!」

 それはそうだ、どんな物を植えようと柿の種へと変わる。自分で作っておいてなんだがこれは恐ろしい土なのだ。

「……ちなみにこれは何の種で出来てるのさ」

 えーと、その場所に植えた種は確か――

「――の種、だったかな」

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どうしようもない話たち 卵粥 @tomotojoice

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