第6話 バンドの話

「俺達、解散しよう……」

 その日練習を始める前に、バンドのリーダーから言われた言葉であった。

 ちなみに今日は結成一日目である。

「あー、そうなんだ。じゃおつか――」

「何でそんなこと言うんですかリーダー!」

「そうだよ、武道館目指してくつもりで行こうって言ってたじゃん!」

 え、何でこの二人こんな熱くなれるの、結成一日目どころか昼休みに結成して放課後に解散しようとしているこのメンバーに何を思っているの。

「みんな…………、すまない…………!!」

 そしてこのリーダーも何でこんな涙流せるの、心が冷え切っているのはこの場で俺一人なの?何で三人とも泣き出しているんだ付いていけない。そもそもそれぞれのパートすら決まっていないのに、練習すらできやしないのに……。

 心が虚無に染まり切っていた。俺も泣きたくなってきた。



 事の発端はと言えば後のリーダーたる神木かみき康介こうすけの一言であった。

宗助そうすけ、バンドやろうぜ」

「……理由は?」

「決まっているだろう、青春だ」

 こうして俺は(ほとんど強制的に)バンドの一員となった。この男はいつだって唐突によくわからないことを始めて、いつだって幼馴染の俺を巻き込んでくる。一か月前は「本格派カレーを作ろう」と言われて俺の夏休みを突如インド旅行へと変えた。挙句完成したカレーを食って「C〇Co壱のが美味いな」とか言いやがった時はぶん殴ってやろうかと思った。

 ちなみにいつも巻き込まれる幼馴染にはあと二人、夕空ゆうぞらかなたと惣流そうりゅう玲奈れながいる。彼女たちもこの後バンドメンバーの一員となるのは言うまでもない。

 どんな感じで勧誘されたかと言えば

「かなた、玲奈、バンドを始めるぞ」

「任せなよ、ボクが武道館へと導いてあげよう」

「上手くできるかどうかは分かりませんが、頑張りますね」

 理由すら聞かなかった。恐らくこのメンツで圧倒的に足りていないものは知性であろう、あとツッコミ。



 そして今に至る。あとかなたは武道館目指していた割には、手に持っていた楽器はカスタネットであった。バンドにカスタネットの枠はねえよ。

「でもいきなりどうしたのさ、解散だなんて」

 この数時間の間でブームが去ったのだろうか。

「先ほど調べたのだが、欲しかったギターが予算内の十万では足りなかったんだ……!!」

 もっと酷かった。そのくらいバイトするなり何なりしろや。

 だが二人はそう思わなかったらしい

「まさか康介もとはね。ボクもさっき調べたドラムセットは十万じゃ買えないみたいなんだ……」

「私もドラムセットは十万で買えませんでした……」

 二人とも同じ壁にぶち当たっていた。あとこいつらパートを話し合う前に楽器買おうとしていたのか。おかげで今のところギター1のドラム2というバランスの悪いバンドが生まれているじゃないか。

「宗助のベースは買えるのか?」

「調べてないから知らないよ。そもそも俺がベースなのは確定なのか……」

 それを聞いた三人は信じられない物を見る目で見てきやがった。何でこんなのと幼馴染やってるんだろう。

「お前の相棒を決めるんだぞ、そんな軽い気持ちで良いのか!」

「そうだよ宗助!」

「宗助君のバンドに対する気持ちはその程度だったんですか!?」

 むしろこの三人はこの数時間でどれだけの情熱を燃え上がらせたんだろうか。あとそんな情熱があるのなら楽器を買うお金が足りないだけで諦めないでほしい。

「ていうか俺がベースだとしてギター1ベース1ドラム2、バランスが悪いだろ」

 すると康介は不思議そうな顔をしていた。

「宗助、何を言っている。俺はボーカルだぞ?」

「ああ、ボーカル兼ギターってこと?」

「いや、ボーカルだけだが」

「じゃあギターいらねえだろうがああああああああ!!」

 結局そのままバンドは解散した。そして翌日には康介の発案により、俺たちはうどんを作らされていた。

 出来上がったものを食べて一言。

「〇亀のが美味いな」

 縁切ってやろうかこの野郎。

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