第4話 嫉妬の話
僕の彼女はワインが好きだ。現に今も僕の作ったおつまみを食べながらにこやかにグラスを傾けている。
「♪~~♪~~」
「…………」
今は二人とも仕事終わりの夜、いつもこうやってゆっくり過ごす。
それは付き合う前、友達だった頃から自然とそうなっていた。
そして、僕のすごくくだらなくて情けない悩みも、その時から始まった。いや、彼女――昼咲月美と出会った時から既に始まっていたのかもしれない。
「アラタ? どうかしたんですか?」
しばらく彼女を見て考え込んでいたからか、不思議そうに問いかけてくる。
「いや、何でもないよ。美味しくできたかどうかが気になっただけさ」
「それなら安心して大丈夫です。アラタが作るご飯はいつだって美味しいですから」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ」
これは月美にも言えない秘密。自分が彼女の近くで変わらず寄り添い続ける志の糧となる感情だと言える。
そうこうしているうちにボトルは空に、皿の上もきれいになっていた。
「ふう……、ごちそうさまでした。月美はとっても満足です」
「そっか、明日も満足いくものが作れるよう頑張るよ」
そう言いながらグラスとお皿を台所へと運び洗い始める。
そして、先程までの彼女の顔を思い出す。ワインを飲んでいるときの月美、それは僕と話しているときでもあまり見られない顔であり、特別な感じがした。
そんな顔を容易に引き出せるワイン、それに対して僕は――
「ワインに嫉妬してるとか、口が裂けても言えないな……」
「ああ、やっぱりそんな感じのこと思っていたんですね。予想通りです」
「うわああああああ!?」
まあまあ気に入っていた皿が割れた。
「えーと、どのくらい前から気づいてたの?」
「二、三回目くらいの宅飲みの時でしょうか? 何だか微妙な顔してるなーとか思って見てましたけども」
めっちゃ最初じゃん、何なら付き合う前じゃん。
絶対に知られたくなかった悩みを知られた(何なら割と最初からバレてた)事で青くなっていた僕に月美は呆れ顔で口を開く。
「まったく、そんな事で嫌われてしまうのでしたら、月美はとっくのとうにアラタに嫌われてしまっていますよ?」
はい、申し訳……、え? どういう事?
「知っていますか? アラタは料理しているとき私と話しているときでもそんなに見ないくらい楽しそうな顔なんですよ?」
え、そうだったの? 気にしたことなかったや……。
「他にもあります、アラタが誰かにやさしくするたびに、嫉妬しています。いつだって月美はアラタを独占したい気持ちでいっぱいなんです」
そんな、今まで知らなかった月美の気持ち、想い。きっと彼女は並べていけばキリがない程言えるのかもしれない。
だって、自分自身がそうだったから。
彼女が誰かと話しているだけでもやもやするし、出来ることならずっと彼女の傍にいたいくらいだ。
ああ、つまり僕たちは似た者同士だったわけだ。
それに気が付くと、何だか急に可笑しくなってきた。
「ふ、ふふっ、あはははは!」
「む、どうして笑うんですか。月美は割と真剣なんですよ?」
「いや、僕も結構同じこと考えてたから、なんだか可笑しくなっちゃって」
そうだ、別に嫉妬くらいいいじゃないか。そのぐらい好きなんだ、文句あるかと言ってやればいい。
「よし! 確か月美も明日休みだったよね? どこか出かけようか」
「おお、それでしたら月美、ワインが美味しいお店に行きたいです!」
その言葉にまた、何となくもやもやとしたがもう気にしないことにした。
この嫉妬の気持ちはこれから先、彼女のことが好きである限りずっと続くものなのだと分かったのだから。
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