小さな書店員
神本書店に行くと、おばあちゃんとお父さんが何やら話していた。あわてて店を出ようとしたら、お父さんに呼び止められる。
「ゆめ。ちょっと来なさい」
わたしはすごすごと、桐谷くんと一緒にお父さんの前までやってきた。昨日のことで怒ってるのかな。そう思っていたら、降ってきたのは、全く思っていたのと違う言葉だった。
「ゆめの言った通りだった。おばあちゃんは、少しも物語を書き続けて働かないおじいちゃんのことを悪く思ってなかった。それに、おじいちゃんが、おばあちゃんやお父さんのことを大事に思ってなかったということもなかった」
そう言って、お父さんはわたしと桐谷くんを一つの本棚の前に案内した。そこにはたくさんの本が。
「この棚に入っている本すべて、お父さんかおばあちゃんのために書いた物語だったんだ。お父さんが物語を読まなくなってからも、いつか読んでくれるかもしれないと思って、ずっと書き続けてくれていたらしい」
わたしと桐谷くんは背の高い本棚を見上げた。これだけの本棚をいっぱいにするくらいの量の物語を書こうと思ったら、とてもたくさんの時間がかかったはず。
それだけ、おばあちゃんとお父さんを愛してたんだ。おじいちゃんは口下手だったけど、やっぱり家族のことは愛してたんだ。
お父さんは、言った。
「お父さんの勝手な意見を押し付けてしまってすまなかった」
「ううん、いいよ。お父さんが分かってくれたなら、それで」
そう言うと、お父さんは安心したように、ため息をつく。おばあちゃんはそんなお父さんの肩を叩く。
「だから言ったじゃろ、ゆめはそんなことでお父さんを嫌いになったりはせんって」
お父さんは頷くと、今度は桐谷くんを見た。
「君が、桐谷くんだね? おじいちゃんのことを支えてくれてたっていう……」
「いえ。こちらが創さんに救われていました」
桐谷くんは、はっきりと言った。お父さんはわたしと桐谷くんを見比べて言った。
「この『神本書店』のことだけど。手放すのはやめにしたよ。お母さんにも話した」
わたしはそれを聞いて一瞬、何が起きたか分からず固まった。しばらくしてから、実感がわいてくる。
「本当に……、本当に売らない?」
「ああ、売らないしお店も開けたままにする」
「でもお店のことは? おばあちゃんに任せるの」
すると、お父さんはわたしと桐谷くんに笑いかける。
「書店員さんなら、ここにいるじゃないか。かわいい小学書店員が」
「え! いいの!? わたしと桐谷くんで、ここで物語を作っていて、いいの!?」
わたしが聞くと、お父さんは頷いた。
「営業時間とかは、ゆめたちの学校終わりの時間からにしたりとか、色々と変更は必要かもしれないけど。……この店を任せてもいいかな? 小さな書店員さん?」
わたしと桐谷くんは顔を見合わせた。だんだん顔がにやけてくる。
「「はい、任せてください!」」
わたしと桐谷くんの元気な声が、店内に響きわたった。
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