きらきらわたあめ。

「タイトルは、『王子さまと結婚したいお姫さま』です」


 わたしがそう言うと、本がぱたんと閉じる。そして桐谷くんの本と共に空へ。空の上で、本同士がぶつかり合い、一冊の本が生まれた。


 生まれた本を、わたしは松平さんに渡しながら、言った。


「自分が思うことをやればいいと思うよ。誰かが言ったからってやるのは楽だけど、その後の選択をするのは、自分自身。だって松平さんの人生は、松平さんだけのものだから、自分で決めなきゃ、あとで後悔するよ」

「オシャレするのは好き。だけど、それを見てほめてくれないとおかしいと思うのが、間違ってたんだね」


 松平さんはそう言うと、桐谷くんの前に立って言った。


「桐谷くんの言葉で、私はオシャレが好きになったんだ。ありがとう」

「こちらこそ、忘れててごめん」


 桐谷くんは謝った。松平さんは笑った。


「ほんと。……でも、男の子ってそういうもんだよね」


 その時、松平さんからきらきら光るわたあめが落ちた。なんだろあれ、普通のわたあめとは違うような。

 松平さんは教室のドアのところまで歩いて行くと言った。


「みんな、ありがとう。おかげでなんだかすっきりした。あー、あとは明日からの学校がゆううつだなぁ。友達にうるさいって言っちゃったんだよなー」


 あ、あの時の記憶はあるんだ。わたしが思っていると、松平さんが足早にわたしのところへ戻ってきて、言った。


「私、きれいさっぱり桐谷くんのこと忘れるからさ。頑張ってね」

「はいっ!?」


 松平さんはけたけた笑いながら、教室を出て行った。松平さんが言ってた意味は、よく分からなかったけど。何にせよ、無事に解決できて本当によかった。


「それじゃ、帰ろうか」

「あ、悟。これ返しとく。一個使っちゃったけど」


 桐谷くんは、黒松さんから借りていたわたあめを、悟くんに返す。


「ま、どうでもいいけど」


 悟くんは、笑って答えてわたあめを受け取った。あ、受け取るんだ。お兄ちゃんにあげるよ、じゃないんだ。


「そのきらきらわたあめは、それは兄さんにあげるよ」


 地面に落ちたままのわたあめを指さして、悟くんは言った。


「それで……。勝負も、今回は兄さんの勝ちでいい」

「え」

「ぼくとウララだけだったら、暴走したわたあめを止められなかった。だから、今回助けてくれたお礼として、受け取っといて」


 そう言うと、さっと悟くんは教室を走り出て言った。


「まったく、素直じゃないですわね、悟さんは」


 黒松さんは、悟くんの背中を見送りながら言った。それから、わたしに笑いかけた。


「ゆめさん」

「はい」

「貴女は、啓真さんの素晴らしいパートナーです。これからも、一緒にいてやってくださいね」


 そう言うと、黒松さんも悟くんを追いかけて走って行ってしまった。残されたのは、わたしと桐谷くん。彼は、床に落ちたきらきらしたわたあめを拾い上げると、にっと笑った。


「……それじゃ、行くか」

「うん」


 わたしたちは、本をぶつけ合ってハイタッチする。そして神本書店へと向かったのだった。

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