松平さんの居場所の手掛かり
「一つだけ、聞いてもいいかな」
「なんだ」
わたしは、桐谷くんの目をまっすぐ見て言った。
「今日、わたあめを使ってわたしを助けてくれた時」
「うん」
「わたあめは、桐谷くんに見えてた?」
わたしの言葉に、桐谷くんは、はっとした。
「見えてた。神本のわたあめじゃなかったけど」
「……それが、わたしの答え」
わたしは、桐谷くんを見上げる。
「今まで、わたあめが見えなくなってた桐谷くんが今日、わたあめを見ることができた。つまり、桐谷くんの中で、何かが変わり始めてるってこと」
「一理ありますわね」
黒松さんがわたしに同意してくれる。
「心が強い分だけ、魔法も強くなると言います。きっと啓真さんはこの、わたあめが見えない期間で大きく成長されたのですわ。だから、わたくしは啓真さんにも手伝ってほしい……――、いえ、手伝ってもらわないといけないと思いますわ」
最後に残ったのは、悟くんだ。
「悟くんは、どう思う」
わたしの問いに、悟くんはぶっきらぼうに言った。
「ま、どうでもいいけど」
「それじゃ、手伝ってもらっていいよね」
「どうでもいい」
「はいはい」
わたしは悟くんを軽くあしらうと、桐谷くんにぐっと親指をつきだした。
「前はお父さんに止めてもらったんでしょ。じゃ、今日は子どもたちだけで止められるように頑張ろう!」
「それはいいですわね!」
「兄さん一人だけの時と、四人の時。比べるだけ無駄だと思うけどな」
悟くんの言葉は、誰にも聞き届けてもらえなかった。
「ところで、松平さんが出没しそうな場所ってお分かりになります?」
黒松さんの問いかけに、わたしは首を振る。
「ううん。オシャレ好きだから、ショッピングセンターにいそうだなとは思うけど……」
「多分……、ここだ」
桐谷くんは床を指さす。え、地面!?
「地面にもぐりこむなんて、冗談でも面白くないよ」
悟くんが大きなため息をつく。すると、今度は桐谷くんが大きなため息をついた。
「違う、学校にいるってことだ」
学校に!?
「あと多分……。いるのは、四年生の教室。四年五組」
「なんでそんなに詳しく分かるの!?」
わたしがびっくりしていると、彼は悲しそうに笑った。
「やっとわかったかもしれないんだ、なんで松平がオレを好きになったのか。その理由」
あ、そっか。様子のおかしい松平さんが唯一気にしたのが、桐谷くんとの関係だった。ということは、桐谷くんが関係する場所にいる可能性高いもんね。
すると、悟くんも思い出したように言った。
「そういえば、松平さん、兄さんとの関係をよくしたいから、兄さんが関心を持ってる人間が分かるようにしてほしいって言ったな」
「それで!?」
「それでって……、そういうのが分かる魔法をかけてあげたんだよ。そしたら、松平さん、神本さんの名前を……」
「「それだっ!」」
わたしと桐谷くんは同時に言った。わたしは悟くんに確かめるように聞く。
「それっていつのこと?」
「昨日の朝。学校に来てすぐだったのですわ」
それを聞いて、わたしは納得した。朝に魔法をかけてもらったのなら、わたしがその日、桐谷くんと話してもいないのにやってきて、私の書いた物語にケチをつけたのも、理解できる。桐谷くんの興味のある人としてわたしがあがったから、その興味のある人間であるわたしを、松平さんは蹴落とそうとしてたんだ。
「自分に興味を持ってもらおうと思って、今桐谷くんが興味を持ってるわたしの悪口を言っていたら、桐谷くん本人に嫌われた……」
「それで、『キモチのわたあめ』が暴走し始めたというわけですわね。納得ですわ」
そんな、かけたらまずい魔法をすんなりかけていた悟くんは、後で説教するとして。とりあえず、松平さんを見つけなきゃ。
「松平とは、去年……――、四年五組で初めて同じクラスになったんだ」
「そこで、松平さんと啓真さんは愛を育んだ……っ」
黒松さんが、きゃっと声を上げる。
「……だから、オレは好きになってないんだって」
桐谷くんがちらりとわたしを見る。え、わたし何も疑ってないってば。
「詳しいことはあと。とにかく教室へ行こう!」
わたしたちは、四年五組の教室へと向かった。
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