様子のおかしいクラスメート

 それから数時間は、いつもと同じ日常だった。わたしは授業の合間に物語を書き続け、桐谷くんはわたしの書いた物語にイラストを付け加えた。良平くんの人生が明るものとなるよう祈る気持ちで、主人公のネコやイヌ、鳥やうさぎ、それぞれがどういった形でその後過ごしていたかの話を中心に書いていく。その様子を加奈子がうれしそうに楽しそうに見ていた。


 四時間目が始まった時だった。急に教室のドアが開いて誰かが入ってきた。先生がおどろいた顔をする。


「あら、松平さん。今日はお休みだと聞いていたけど、気分はもう大丈夫なの」

「はい、問題ないです……」


 その声を聞いて、クラスメートほとんどの視線が松平さんに向けられた。でも、わたしたちが見たのは、いつもの松平さんとは全く違った別人のような人だった。


 いつもファッションモデルみたいに、かわいいヘアゴムでまとめた髪は、まるで起きたてみたいに、あちこちハネていた。

 さらに、服装もいつもなら雑誌に載ってるようなきれいで、すてきな服なのに今日は、ジャージ。どうしたんだろう。

 それに何よりおかしいと思ったのは、彼女のまとっているオーラだった。いつもなら芸能人と言われても信じてしまいそうなキラキラオーラをまとっているのに。今日は、どす黒くて、近づいたらこっちまでマイナス思考になってしまいそうな、そんなオーラだった。


 わたしは思わず、桐谷くんを見た。彼は、松平さんをみて、それからゆっくりと頷いた。多分、わたしが考えていることと、桐谷くんが考えていることは同じだ。


 桐谷くんは、いつもなら絶対しないのに、授業中にも関わらず、空色の本を取り出した。わたしに何か伝えようとしている。そう思ってわたしも赤い本を引っ張り出す。


『たぶん、消えたわたあめは松平のものだ。さっきウララさんから預かった五人の悟が魔法を使った人リストの中に、松平の名前もあった』


 あ、そういえばさっき黒松さんから桐谷くんは情報もらってたもんね。


『他の四人は、悟のクラスの生徒か、ウララさんのクラスの生徒だったから、各自で様子を見てもらってる』


 それじゃ、わたしたちが気にするべきは、松平さん一人だけ!


『じゃあ、二人で松平さんの様子をしっかり観察しなきゃね』


 わたしはそれだけ書いて、急いで本を引き出しの中にしまった。先生にばれて没収なんてされたら、おしまいだからね。


 休み時間になると、いつも通り松平さんと仲がいい女子たちが、彼女の周りに集まっていく。


「菜緒ちゃんどうしたの。顔色悪いよ」

「やっぱり学校休んだ方がよかったんじゃない」


そう口々に言う女子たちに、松平さんは一言、苛立たし気に言った。


「私に構わないで!」


 そのとたん、教室中がしんと静まりかえる。松平さんはそのことを気にしていない様子で、ぼーっとわたしと桐谷くんを見つめていた。

 松平さんのグループの女子たちは、こそこそ話しながら、松平さんから離れていった。これは、色々とまずい気がする。


 松平さんは、桐谷くんの席へと向かった。


「桐谷くん」

「……何」

「私たち、付き合ってるんだよね?」


 え!? わたし、アニメなら目が点になってたと思う。松平さんの言葉に、桐谷くんは冷たく言った。


「……悪いけど、松平と付き合ったことはないし、そもそも告白された覚えもない」

「何言ってるの、桐谷くんが言ったんじゃない。私のこと、好きだって!」


 松平さん、甲高い声でまくしたてる。教室中の視線が、桐谷くんと松平さんの方に集まっていく。


「オレ、別に好きな人がいるからさ。松平に好きって言うはずがないんだ」


 それを聞いて、クラス中がざわめき始める。松平さんが嘘をついているのかと確認しあうような声や、桐谷くんの好きな人って誰だろうという声。


「うそ……、うそよ……」

「申し訳ないんだけどさ、オレ、松平の気持ちには答えられないんだ」

「わ、私は! 桐谷くんのことなんてこれっぽっちも好きじゃないわ! 桐谷くんが好きだって告白してきたから! 仕方なくオーケーしてあげたんじゃないっ」


 そう言うと、松平さんはわぁわぁ泣き始めた。それが急に静かになった。赤く泣きはらした松平さんの目。それがわたしをにらんでる!!


「何よ、ゆめを恨むんなら、お門違いもいいとこだよ!? あんたが勝手に勘違いして、勝手に振られただけなんだからっ!」


 視線に気づいて加奈子が強い口調で松平さんに言う。松平さんは、ふらふらと立ち上がると、わたしを見下ろした。


「アンタのせいだ! アンタのせいで私は……っ」


 松平さんは、わたしに掴みかかってこようとする。わわ、目が正気じゃない! これは、掴まれたら大けがする気がする! その時、彼女の後ろに見える桐谷くんがわたあめを掴んでいるのが見えた。


 ぱぁっと一瞬まぶしい光が教室を包んだ。すると、松平さんは、わたしから離れて、教室を出て行った。

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