消えたわたあめ。
「今日、ぼくたちが集めた数を聞いて、自分たちのわたあめの数が負けているのを知って! 盗んだんだろ!」
「そんなこと、するわけないじゃない!」
わたしは、言い返した。
「確かに、あれでわたしたちが負けてるってことは分かった。だけど、人が集めたものを盗むなんて、そんな卑怯なことはしないよ!」
一個、昨日できたわたあめを、今日拾ったからってカウントはしたけど。でも相手チームから盗むなんてこと、してない。そんなことしてまで、勝とうとは思わない。
「そもそも、そんなことして勝たなくちゃいけないくらいなら、さっさと負けを認めてるよ。だって、勝っても負けても、そこまでは問題じゃないんだから」
すっごい罰ゲームが用意されてるとか、何あれば別だけど。そう思ったけど、そんなルール、聞いてないし。
「そもそも兄さんは、魔法使いを名乗る資格なんてない。だってもう、ほとんど魔法使えないんだからっ」
「え……」
それは、初耳かもしれない。わたしがびっくりしているのを見て、悟くんはにやっと笑った。
「あれ、もしかして兄さん、自分のこと話してないの? 『キモチのわたあめが見えないこと』とか」
わたしはそれを聞いて、固まってしまった。『キモチのわたあめが見えない』……!? 少しだけショックを受けるわたしに、さらに悟くんが言う。
「あと、普通の魔法使いなら何もなしで魔法が使えるのに、兄さんはわたあめの力がないと、魔法が使えないとか。わたあめの色も見えないし。ほんと、出来損ないもいいとこだよねー」
「……」
桐谷くん、黙ってしまう。わたしは、悟くんに言った。
「出来損ないなんかじゃないよ。桐谷くんは、わたしの大事な相棒だよ」
「なんだって」
わたしは、悟くんに向けて言葉を続ける。
「確かに、『キモチのわたあめ』が見えないこととかを教えてくれなかったのは少し残念だったけど。でもなんとなく、そんな気はしてたし。それに」
わたしはここで言葉を切って、桐谷くんと悟くんを見比べながら言った。
「桐谷くんがいなかったらとっくにわたし、諦めてた。でも桐谷くんがいてくれて、一緒にお客さんのための物語を作ってくれたから、ここまでやってこられた。わたしたちは、二人できっと一人前の魔法使いになれると思う」
「それでいいと思いますわ」
黒松さんだった。彼女は、わたしと桐谷くんを見つめて言う。
「そもそも完璧な人間なんて、いません。自分の足りないところに気づいてそれを誰かと補い合える関係である方が、すばらしいと思います」
黒松さんは、悟くんに言った。
「最初から相手を疑ってかかるのは、よくないと思いますわ。反省すべきです」
「それに、盗まれたことを疑うのなら、もう一つの可能性も疑うべきだと思いますの」
黒松さんの言葉に、桐谷くんがはっとした顔をする。
「まさか……、わたあめが暴走した……」
わたしはその言葉を聞いて、わたあめが大きなわたあめになって、あちらこちらに飛び散る様子を想像してしまう。
たぶんわたしの様子でそれに気づいたのだろう黒松さんが、やんわり言った。
「神本さん、わたあめの暴走とは、わたあめの元の持ち主の心の暴走のことをいうのですわ」
「わたあめの元の持ち主……」
「ええ。ただ、悟さんの管理不足で、五人のうちの誰のわたあめがなくなったのかが分からないのですわ。分かればすぐ、その人のところへ向かえばよいのですが……」
「色で判別したりはできないんですか」
わたしが尋ねると、黒松さんは首を横に振る。
「残念ながら。今回集めたこの五個のわたあめは、すべて同じような色合いでしたの。それに、全部まとめて袋に入れて保管していたもので、回収した順番も分かりません」
「わたしたちも、手伝います」
自然と言葉が出ていた。となりにいる桐谷くんが息をのむ様子が分かる。悟くんが鼻をならす。
「ふん。敵に手伝ってもらうなんて、恥だよ恥」
「でも、そんなこと言ってる間に、何か起きたらどうするんですか」
わたしの言葉に、悟くんは言い返せない。黒松さんが言った。
「その通りです。何かあってからでは遅いのですわ。今日は残念ながら学校に悩みを解決した人の名前リストを置いてきてしまいましたので、明日、必ずお伝えしにまいります」
「よろしくお願いします」
こうして、わたしたちの戦いは一度、休戦という形となり、消えたわたあめの行方を探すことになったのだった。
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