少しの仲間と、話を聞いてくれる人の重要性

 物語を語り終えると、本が勝手にページを閉じた。その表紙に向かってわたしは言う。


「……。この本のタイトルは、『誰が悪いのか』で決まり」


 その言葉に、桐谷くんは無言で頷く。それを合図に、桐谷くんの本とわたしの本が浮かび上がって、空中でぶつかり合う。そして出来上がった本を、良平くんに押し付けた。


「誰も味方してくれないときも、ある。でも今回は違うよ」

「どこが違うんだよっ」


 良平くんが目を真っ赤にして言う。わたしは表紙をたたく。そこには、一羽の鳥とうさぎが描かれている。


「物語には、ネコを信じた鳥とうさぎがいたよね? 良平くんの近くにも、この鳥とうさぎと同じように考えてくれてる人がいるってこと」

「そんな人、いるわけ……」


 そう言いかけて、良平くんの言葉が止まった。どうやら、気づいてくれたみたい。良平くんの視線とさおりちゃん、宅くんの視線が絡み合う。物語みたいにうまく行かない人生は多い。でも、今回は違う。彼のことを信じてくれそうな人が、今目の前にいる。


「私と宅くんが、うさぎと鳥さんなんだよね?」


 さおりちゃんが、わたしを見上げる。わたしは小さく微笑む。


「そうなってくれたら、うれしいな。そして二匹を三匹、三匹を四匹って増やしていってほしい」

「おれ、頑張るで。さおりちゃんと二人で、頑張るで」

「三人が仲良くしていれば、周りの動きも変わってくるかもしれない。でも絶対にそうなるとも限らない」


 桐谷くんが静かな声で言った。


「良平くんと仲がよかった男の子が、どんな気持ちでそんなことを続けているのかが分からない以上、物語通りに行くとは限らない。無理そうだと思ったら、三人で早めに近くの親に相談するしかない」

「……ありがと」


 小さな声が聞こえた。それは、良平くんから発せられた言葉だった。


「どうせ誰も僕の言葉なんて信じてくれないと思ったんだ。でもちゃんと話を聞いてくれて、相談に乗ろうとしてくれて、うれしかった」

「良平、気づいてあげられなくてごめん」


 加奈子が謝る。良平くんはぶんぶんと首を横に振って言った。


「姉ちゃんが悪いわけじゃない。僕があの子の気持ちにちゃんと気づいてあげてれば、こうはなってなかったかもしれない」


 彼の胸にまた、ふわふわしたものが生まれる。今度は全体が灰色で、真ん中がオレンジ色のわたあめ。わたしはそれをまた、あみで捕まえる。それから、ビンに入れて他のわたあめと並べるように置いた。


「何かあったら相談には乗れる。いつでも言っといで」


 わたしが言うと、良平くんは頷いた。


「うん、気持ちが楽になった。ありがと、姉ちゃん」


 そして、良平くんはさおりちゃんと宅くんに向かって言った。


「今まで冷たい態度とっちゃってごめん」

「ううん。わたしたちも、ちゃんと話を聞いてあげられなくてごめん」

「悪かったで。今度からは協力するから、何でも言うてな」


 良平くんの言葉に、さおりちゃんと宅くんはすぐに返事をした。時刻は18時になろうとしていた。暗くなり始めた店内から、加奈子と良平くん、さおりちゃんと宅くんが急いで出て行った。

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