ライバル(?)登場
わたしと桐谷くんが話しながら歩いていると、急に桐谷くんが立ち止った。わたしは、桐谷くんを見上げて聞いた。
「どうしたの、桐谷くん。……桐谷くん?」
桐谷くんは、前を向いたまま答えない。わたしが桐谷くんの視線の先を見ると、そこに二人組が立っていることに気づいた。どちらも、こちらを見つめている。
一人は、桐谷くんによく似た男の子だった。桐谷くんと違うのは、髪の色が茶髪なのと、彼より幼く見えるところ。そしてもう一人は、松平さんとはまた違った、オシャレな服装をした女の子だった。わたしより年上に見えるから……――、小学六年生かな。
松平さんのおしゃれは、ファッション雑誌に載ってるような、みんながかわいい、かっこいいと思いやすい服装。でも目の前に立ってるこの女の子の服装は、まるでアニメの中から飛び出してきたような、ヒラヒラのレースがたくさんついたゴテゴテのワンピース。確かこういうのを、ゴスロリファッションって言うんだっけ。
黒いふわふわヒラヒラワンピースのその女の子は、わたしに向かって、ビシィと人差し指をつきつけた。
「貴女が、最近、
うん、見た目と変わらない話し方。これは、キャラが立ってる。今度の小説に使わせてもらおう。まさか、本当にこんな話し方をする人が実在するとは思わなかった。
そんなことをぼーっと思っていたら、黒いふわふわワンピースが言った。
「わたくしは
「えっと、神本ゆめです……」
「貴女の名前なら、既に知っていますわっ」
怒ったような声でいう黒松さん。だって名乗られたら、名乗り返さないといけない気がするじゃん……。
「ぼくは、
茶髪の男の子がわたしに向かって名乗った。また怒られるから、今度は名乗らずに会釈をするだけにしよう。
「神本さん」
「は、はいいいっ」
わたしは悟くんに話しかけられて、びくっとする。
「神本さんは兄さんと魔法使いごっこを始めたみたいだね」
「魔法使い、ごっこ……」
わたしが言葉をくりかえすと、悟くんは頷く。
「ま、どうでもいいんだけど。……兄さんの魔法をあまりアテにしない方がいいよ、ゲンメツするから」
そう言ってから、悟くんは今度は桐谷くんを見上げて意地の悪い笑みを浮かべた。
「とはいえ、同じ学校に二人も魔法使いはいらない。どちらが魔法使いにふさわしいか、はっきりさせようじゃないか、兄さん」
「……」
桐谷くんは、無言だ。それを見て、悟くんは大きなためいきをつく。
「あー、そうか。ぼくと兄さんじゃあ、勝負にもならないか」
「桐谷くんは、すごい魔法使いだよっ」
わたしは思わず声をあげてしまった。桐谷くんがおどろいたように私を見る。
「桐谷くんは、おじいちゃんの店を手伝ってくれてる。それに、今日だってわたしを助けてくれた。正真正銘、いい魔法使いだよっ」
魔法のことなんて、ちっともわからないけど。でも、桐谷くんがいなかったら、わたしは『神本書店』を守ることができるかもしれないって自信を持てなかった。
それに、今日遅刻しそうなわたしを魔法で助けてくれた。弟さんとどんな事情があるかは知らないけれど、わたしにとって桐谷くんはいい魔法使いだ。
昨日、声をかけられたばっかりの時は桐谷くんが魔法使いだって聞いても信じなかったけれど。今は、信じてる。
そう心の中で強く思ったら。自分の胸のあたりがぽかぽか温かくなるのを感じた。昨日、さおりちゃんの胸の近くで見かけたものに近い形。『キモチのわたあめ』だ!
わたしの『キモチのわたあめ』が見えたのか、黒松さんと悟くんがびっくりした顔をする。でもすぐに悟くんは鼻をならした。
「ま、いいけど。……それじゃ、どちらがたくさん『キモチのわたあめ』を集められるか、勝負しよう」
「勝負……」
「期限は一週間後。来週の今日、待ち合わせはこの場所。今日から数えて、どちらがどれだけたくさんの『キモチのわたあめ』を集められるか競争だ。ね、簡単でしょ」
『キモチのわたあめ』の数を競い合うのね。わたしは頷いた。
「分かった。その勝負、受けるよ」
「それじゃ、来週楽しみにしてるねっ」
そう言うと、黒松さんと悟くんはさっさとわたしたちの進行方向とは反対方向へ、歩き去ってしまった。しばらくわたしと桐谷くんはその場に立ち尽くしていた。
「……悪い、変なことに巻き込んじゃって」
桐谷くんのすまなさそうな声で、わたしは我に返った。
「あ、ごめん! 勝手に勝負するって言っちゃった!」
わたしが謝ると、どこか疲れた顔で桐谷くんは首を横にふる。
「いや。……勝負するなら今だとは思ってた。アイツは、オレに勝ちたいんだ。勝って……、オレよりすごいんだってことを、親にアピールしたいんだと思う」
「桐谷くんの、ご両親に?」
わたしが聞き返すと、彼は目を伏せた。
「……もうすでに、オレの方が魔法使いとしては負けてるんだけどな」
「そんなことないよ。わたしは、桐谷くんがいい魔法使いだって思ってる。本当にそう思ってるから、わたしから『キモチのわたあめ』が出て来たんだよ」
わたしはそっと、手の平にわたあめをのせた。すると、桐谷くんは目を細めて言った。
「……このわたあめ、お前のか」
「うん。さっき桐谷くんの弟さんたちと話してる時に出てきたの」
「そっか。神本の気持ちだから、見えるのかな」
そう呟くように言って、桐谷くんはリュックサックからビンを取り出した。昨日、さおりちゃんの『キモチのわたあめ』を入れたのと同じようなビン。
そこにわたしのわたあめを、桐谷くんは注意深く、大切に入れてくれた。
「それじゃ、今度こそ『神本書店』へ向かうか」
そう言った彼の顔は先ほどよりも少し、明るく見えた。
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