説得

 家へ帰ったあと。夕食の席でわたしは、お母さんに言った。


「お母さん、神本書店、閉店するなんて言わないで」

「だから、おじいちゃんもいないのにどうやって続けていくの」


 お母さんの言葉に、わたしはいきおいよく言った。


「わたしが! わたしがおじいちゃんの後をつぐから」

「あんな本屋を残して、何になる」


 お父さんだった。お父さんは、私の方を見ようともしないで、はしをとめずに言葉だけ、飛ばしてきた。


「あの本屋は、利益なんてない、ただのじいさんの趣味だった。そのせいで父さんとおばあちゃんがどれだけ苦労してきたか……」


 お父さんは、そう言ってからわたしに言った。


「あんな店を継ぐだなんて、二度と言うな」


 お父さん、久々に口を開いたと思ったら。そんなことしか言わないなんて。わたしは、食卓の下でこぶしをにぎりしめた。

 今お父さんに口答えしたところで、お父さんに勝てるわけがない。これは、周りから固めていくしかない。お母さんやおばあちゃんを味方にして、あのお店はつぶしちゃだめなんだって説得させるしか。


 でも何で、お父さんはおじいちゃんの子どもなのに、あんなに『神本書店』や本屋そのものが嫌いなんだろう。本も好きじゃないのかな。

 わたしは、お父さんが本を読んでいる姿を見たことがなかった。もう十年は一緒にいるけど、たぶん一度も見たことはないんじゃないかな。でもわたしは、本が、物語が大好き。それは、『神本書店』が近くにあって、おじいちゃんがたくさんの物語をわたしに、読んで聞かせてくれたからだ。


 お父さんだって、物語のよさに気づいてくれたらきっと、あのお店をわたしが継ぐことを反対することはなくなるはず。きっときっと。

 お父さんを納得するためにも、わたしがあの書店の主にふさわしいところを見せなくちゃ、絶対に。わたしは、心に決めたのだった。


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