物語づくり
わたしは、泣いているさおりちゃんの方へと虫あみを近づけた。そして、えいっとわたあめに向けて、あみをばさり。
あみの中に、わたあみはきれいにおさまった。
「『キモチのわたあめ』、入ったか」
桐谷くんの問いかけにわたし、頷いてみせる。すると彼は、ガラスでできたビンをとりだして、わたしに渡す。
「このビンの中に『キモチのわたあめ』を入れてくれ」
まったくもう、なんで自分でやらないのかな!? わたしはぷりぷりしながら、あみを自分の方へよせて、ビンの中にわたあめを入れた。
「はい、どうぞ」
「何色だ、わたあめの色は」
桐谷くんの問いに、わたしは不審に思いつつも答える。
「たぶん、水色」
「水色。悲しい色だな」
桐谷くんは言って、ビンを受け取った。そして、シャボン玉を作るときに使う筒を取り出した。そして、ぶつぶつとひとり言のように言う。
「キモチのわたあめ、ココロのキモチ、シャボン玉にあらわせ」
そう言いながら、筒でビンの中のわたあめをまぜまぜ。あ、なんだかわたあめが、どんどん液体になっていく……。
「どうだ、液体になったか」
「なってるなってる」
だから、なんで見て分かることを聞くのかな!? わたしは思いつつもそう答える。桐谷くんは満足そうにほほえむ。それから、わたしに言った。
「よーく見とけよ」
そう言って、彼は筒からふうっと息を吹いた。大きな大きなシャボン玉がふわりと、宙に浮いた。というか、店内でシャボン玉はだめでしょ!!
そう言おうと思ったとき。シャボン玉がふつうのシャボンではないことに気づいた。シャボン玉の中に、何かの映像が浮かび上がっているのに気づいたから。
中をのぞいてみると、そこには、さおりちゃんの姿がうつってる。彼女は今日とは違う服を着ていた。今のしおりちゃんがシャボン玉にうつったわけじゃない。
シャボン玉の中のさおりちゃんは、お父さんお母さんの前で悲しそうな顔をしている。どうして悲しそうな顔をしてるんだろ。
わたしがそう思ってシャボン玉に近づく。すると、シャボン玉の中から声が聞こえて来た。
『どうして、何をやらせてもだめなんだ。やらせている意味がない』
『ごめんなさい』
『何を言ってるの。さおりは、がんばってるわよ』
『何も結果が出てないじゃないか』
『これからきっと出るのよ、もう少し待って……』
そこで、シャボン玉がとつぜん割れた。びっくりするわたしに、さおりちゃんの声が届く。
『どうしたらわたしは、みんなに認められるんだろう。どうしたらいいの……?』
これってもしかして、さおりちゃんの心の声? さおりちゃんは、泣いたままで私たちの様子に気づいてない。
「さおりちゃんの心の声、聞こえたろ。物語の内容、決まったんじゃないか」
桐谷くんの静かな声。わたしは、小さく頷く。
「だいたいの内容は、決まった。あとはそれを物語にしていくだけ」
今、わたしの頭の中には使えそうなアイデアがあちこちに飛びちっている。これを集めて、うまくつなげて物語にしなくちゃいけない。
わたしは、カウンターのいすにこしかけた。そして、赤い本のページの上に、ペンを持った手を置いた。
ページにはすでに、桐谷くんが描いたイラストがある。わたしがさっきシャボン玉で見た光景。
「あれ桐谷くん、絵、うまいね」
わたしが素直に言うと、彼はそっけなく言った。
「オレは、文章は書けない。お前の文章がなければ、物語は完成しないんだ。さっさと書け」
そんなこと言われても、すぐ書きあげるなんて難しいよ……。そう思いつつ、わたしは、思いえがく文章を言葉にしていく。
「昔むかし、あるところに……」
すると、わたしが言葉にしたことを勝手に、ペンが本に書きとっていく。おお、なんて便利なんだろう! そう思いつつ、わたしは頭の中の物語を言葉にしていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます