キモチのわたあめ
「眠り姫って、他にどんな特徴があるの」
わたしが尋ねると、さおりちゃんはわたしの方に身を乗り出してきた。
「えっとね、すぐ眠たくなっちゃうから、失敗ばっかりしてるの」
「それでどうなるの」
「みんなに、怒られちゃうの」
そう答えるさおりちゃんの言葉を聞きながら、わたしは考える。じゃあなんで眠り姫は、すぐ眠くなってしまうんだろう。何か理由はあるのかな。魔女から呪いをかけられた? だとしたら、なぜ呪いをかけられたんだろう。
呪いをかけられたとしたら、きっと何か理由があったはず。『いばら姫』でも、魔女が赤ん坊に呪いをかけた理由が書いてあった本があった。たしか、一人だけ王女様のたんじょう日パーティーに呼んでもらえなかったんだ。その理由は『招待客用の上等なお皿の数が足らなかったから』とかだったような。
なににせよ、呪いをかけるにはかけるだけの理由がきっとあるはず。その理由もしっかりと、物語の中に組みこみたいね。
「それで、眠り姫はどんな気持ちになるの」
「なんで私ってみんなを怒らせてばっかりなんだろうって悲しくなるの」
そう答えてくれるさおりちゃんの表情も、悲しそう。
「……それでさおりちゃんは、眠り姫にどうなってほしいのかな」
となりから声が聞こえてきた。桐谷くんだった。
「さおりは……、さおりは……」
そこで、さおりちゃんは急に泣き始めちゃった! え、どうしたの!?
「ごめんなさい、さおり、分かんなくなっちゃった!」
その時だった。わたしに、不思議なものが見えたのは。それは、さおりちゃんの胸のあたりに、ゆらゆら揺れていた。
わたあめみたいに柔らかそうで、つかんだら、くしゅってつぶれちゃいそうな、そんなふわふわの物体。色は、水色。お祭りとかの出店で見覚えがある。なんだっけ。
どこから出て来たんだろう、あれ。さっきまでは見えなかったのに。わたしは、目をこする。すると、桐谷くんがすかさず言った。
「見えたかっ!?」
「見えた? 何が?」
わたしが聞くと、彼はいきおいこんで言う。
「キモチのわたあめ」
「『キモチのわたあめ』……、何それ」
「その名の通り、その人の言葉で言い表せない本音。それが体のどこかに現れる」
今、さおりちゃんの胸のあたりに浮いているのは、たしかに、わたあめに似てる。
「見つけた……かもしれない」
「わたあめを!?」
桐谷くん、わたしの方をすごい顔で見る。
「う、うん。……さおりちゃんの、胸のあたり」
わたしが言うと、桐谷くんは顔をしかめた。
「……やっぱりだめだ」
「え」
わたしが聞き返すと、桐谷くんはがさごそとおじいちゃんの箱をあさる。そして、虫をつかまえるときに使うようなあみをとりだし、わたしにさしだした。
え、これで何をしようっていうの!?
「これで、その『キモチのわたあめ』をつかまえてほしいんだ」
夏といえば虫とり! 室内でやるなら、『キモチのわたあめ』とりがいいね! なんじゃそりゃあああああ!?
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