魔法少年☆桐谷くん

「オレは、魔法使いだ」


 桐谷くんが、わたしのとなりを歩きながら、しれっという。

 

「え、今なんて言った? 魔法使いって聞こえたけど……」


 わたし、耳がおかしくなったのかな。そう思ったんだけど。桐谷くん、不機嫌そうな顔でもう一度言う。


「だから。オレは魔法使いなんだって」

「……」


 わたし、頭の中で『魔法使い』という単語がぐーるぐる。


「あ、ナルホド。魔法使いが出てくる物語を書いてほしいってことね」

「違う! オレが! 魔法使いなの!」


 わたしはそれを聞いてフリーズする。頭の中では、フリフリのかわいいワンピースを着て、宇宙人と戦ってる桐谷くん。


「ジャパニーズ文化! 魔法少女! イェーイ!」

「魔法少女じゃねーって! ま・ほ・う・つ・か・い!」


 そこまで言われて、わたしは桐谷くんが本気で言ってるってことを感じた。


「魔法使いって、魔法が使える、あの?」

「そう」

「ホウキで空を飛べちゃう、あの?」

「悪いけど、空は飛べない。高所恐怖症だから。そもそも習ってないし」

「黒猫とか従えちゃう、あの?」

「動物の相棒はいないけど」

「薬とか作れちゃう、あの?」

「薬づくりは習ってねーな」

「……」

「……」


 お互いに顔を見合わせて沈黙。その間数十秒ほど。


「それ、魔法使いじゃなくない?」

「いや、魔法が使えるんだから、魔法使いだろ」

「そうかなー」

「そうだって。創さんが自分でそう言ってたの!」

「おじいちゃんが?」


 わたしはそれを聞いて、今朝思い出した記憶をまた思い出す。あの時おじいちゃん、確かに『自分は魔法使いだ』って言ってたな……。

 もちろんそんなこと、当時、幼稚園児だったわたしでも、信じなかったけど。


「お前のじいちゃんは、れっきとした魔法使いだったんだよっ」


 桐谷くんにそんなに力説されても、全然今のところ納得できない。きっとその気持ちがわたしの顔に書いてあったんだと思う。

 桐谷くんはむすっとした顔でわたしから顔をそむけると、言った。


「……行くぞ」

「え」

「神本書店にだよ!」


 桐谷くんはそれだけ言うと、すたすた歩き始めちゃった。


「あ、待ってよー」

 

 わたしはその背中を、あわてて追いかけることになっちゃった。

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