神本書店

 すぐに、古びた『神本かみもと書店』と書かれたかんばんが見えてくる。店の前では、おばあちゃんがホウキをもって掃除をしていた。


「おばあちゃん!」

「おや、ゆめじゃないか。どうしたんだい、こんなに朝早くに」


 今日は学校じゃないのかいと聞いてくるおばあちゃん。そうだ、今日は金曜日だった! でも、まずはおばあちゃんに言わなきゃ。


「おばあちゃん、お母さんがこのお店を売っちゃおうとしてる!」

「……そうかい」


 おばあちゃんの言葉を聞いて、わたしはおどろく。それだけ!? 大事なお店が売られちゃうのに、それだけなの!?


 文句を言おうとおばあちゃんの方を見た。そしたら。おばあちゃん、すっごく悲しそうな顔をしてたんだ。


「……仕方ないことなんだよ、ゆめ」

「どうして!?」

「神本書店はねぇ、おじいちゃんがいないと神本書店じゃないんだ」


 そう言って、おばあちゃんは店の中に入っていく。わたしも、おばあちゃんを追って、店の中に入る。


 お店の中に入ると、本棚にびっしりつまった本たちが目に入る。一つとして同じタイトルの本は、存在しない。

 そして。すべての本の作者は、神本かみもとつくるになってる。そう、ここにある本はすべて、おじいちゃんが作った本たちなんだ。


 おばあちゃんは、本棚を見上げながらさびしそうに言う。


「ゆめも知ってるだろうが、ここにある本はみんな、おじいちゃんが作った本だ」

「うん」

「だから、おじいちゃんがいなければ新しい本は生まれない」


 作者がいない以上、新しい物語を作り出すことはできない。でも。


「わたしがいる」

「え……?」


 おばあちゃんが不思議そうな顔をする。わたしは、はっきりと言った。


「わたしが、おじいちゃんの後を継いで、本を作るよ」

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