本屋、閉店の危機。

 おじいちゃんとの思い出を思い出したのはきっと、今言われたことがきっかけ。


「神本書店ね、閉めようと思うの」


 できたてあつあつの、食パンが一気に冷めたカチコチパンになったみたいに。わたしは、口に運んでいた朝ごはんを落としかけた。

 お母さんの言葉はそれくらい、わたしにはショックだった。


 神本かみもとゆめ。小学五年生。ごくフツーの小学生。将来の夢は、おじいちゃんの本屋、『神本書店』の店主になること。

 その大事な大事な夢が今、音をたてて崩れようとしている。


 おじいちゃんが天国に行ってから、まだ1年。おばあちゃん、おじいちゃんのこと思い出してまだ、時々泣いてるんだ。

 それなのに、思い出のつまったあの本屋を、閉めようって言うの?


「それで、おばあちゃんとここで、一緒に暮らそうと思うの」

「……それ、おばあちゃんにはもう話したの?」


 わたしの言葉に、お母さんは首を横に振った。


「まだよ。反対するにきまってるんだから」


 おばあちゃんと一緒に暮らすってことは、お店を手放すってこと。そんなの、聞かなくたって分かる。

 一階が本屋になってるおじいちゃんとおばあちゃんの家。それを売ってしまうってことだ。


「おじいちゃんがいないと、あの本屋はだめなの」


 お母さんの言ってる意味が、わたしには理解できなかった。


「そんなの、だめだよ。あのお店は、おじいちゃんとの思い出の場所なんだよ」


 気づいたらわたしは、大好きな朝ごはんを残して、家を飛び出していた。おばあちゃんの家に行かないといけないと思ったんだ。

 伝えなきゃ、おばあちゃんに伝えなきゃ。頭の中には、それしかなかった。


 わたしの家から歩いて十分ほどの距離におばあちゃんの家はある。わたしは走って、おばあちゃんの家に向かったんだ。



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