ぎゅっ!
秋作さんと別れて、控室へ戻る途中の事だった。
通路を歩いている時、背の高い男と肩がぶつかってしまう。
「おっとぉ。悪ねぇ。すまない。申し訳ない」
男はまるでついさっきまでサーフィンを楽しんでいたかのような日に焼けた肌に、パーマ毛をオシャレにカットしたイケメン。
一見すると好印象だが、喋り方が人をおちょくっているように聞こえる。
だが、さっきのぶつかり方は妙だ。
まるでわざとぶつかりに来たような……。
いや、考えすぎか。
「いえ、こちらこそよそ見をしてました」
そう答える俺に、褐色肌の男は「ほぅ」と目を開く。
「見覚えがあると思ったら、君、笹宮和人じゃないか」
「は、……はい。俺のことをご存知なんですか?」
「そりゃあ、まぁね。数々の仕事を確実に成功に導いてきた仕事人として、偉いさん方の間で話題に出ることも多いからねぇ」
俺、そこまですごい事をした記憶ないんだが……。
しかしよその会社の人に褒められるのは悪い気はしない。
正直、ちょっと照れるが……。
だが、そんな気持ちは褐色肌の男の自己紹介で、吹き飛ぶことになる。
「バベル社の
「……バベル社?」
俺の動きがピクリと止まる。
気持ちの悪い汗がジワリと流れたような気がした。
ついさっきまでバベル社が悪さをしないか警戒していた時、この
そして男はバベル社の社員だと自ら明かしたのだ。
安久川は俺の隣にいる結衣花を見る。
「……で、そっちは蒼井結衣花ちゃん……で合ってるかなぁ?」
「……はい」
「そうかそうか。なるほど、いいね。女子高生は嫌いじゃないよ。……じゃあ、握手しよう」
「え?」
安久川が結衣花のことを知っていることも気持ち悪いが、それ以上に握手をしようとしてきたことに、俺は怒りに近い感情を抱いた。
手を差し出そうとする安久川の前に立ちはだかり、結衣花にちょっかいを出せないようにする。
「ちょっと……。彼女は俺の連れなんです。いくら何でも強引すぎませんか」
「おっとぉ~、悪い悪い。いつものクセでついついこんなことをしちゃうんだよねぇ。オレってさぁ」
「そんなクセ、あるわけないでしょ」
「まぁ、怒んなよ。さぁって……。オレはもう帰らないといけないんだよねぇ。じゃあ、また会おうぜ。笹宮和人に蒼井結衣花ちゃん」
ニヤニヤしながら安久川が展示会会場の外に向かって歩いて行った。
くっそ……。気分の悪い奴だ。
俺はすぐに結衣花の方を向く。
「大丈夫か?」
「……うん。突然だったから驚いたけど」
「変な奴だったよな」
バベル社といえば悪評こそあるが一流企業だ。
そんな会社にあんな妙なやつがいるなんて……。
……と、そこへ足早に駆け寄ってくる女性がいた。
楓坂だ。
さっきの様子を見ていたのか、表情は少し怒ってるように見える。
「さっきの人、なんなんですか?」
「楓坂。見ていたのか」
「はい。遠くでチラッと見えたので駆け寄ったのですが……」
「さっきの奴は、
「ふぅん……、あれが……」
結衣花第一主義の楓坂にとって、ああいう男が一番嫌いなはずだ。
楓坂の目は完全に殺戮者モードになっている。
こえぇ……。
「まぁ、もうアイツらになにかできることはない。安心しろ」
「そうですね……」
「会場内を歩き回って疲れたんじゃないか? 控室で待機する必要もあるし、休憩もかねて一緒に行かないか?」
「……めずらしく普通に優しいわね」
「特殊行動みたいに言うなよ。これが標準の俺だ」
「ふぅん。どうかしら。でも、そういう気配り、嬉しいわ」
その時だった。
ぎゅっ……。
急に結衣花が俺の腕を掴む。
それはいつも通勤電車で行うしぐさより強めだった。
「どうしたんだ? 結衣花……」
「え? なにが?」
「何がって、急に腕を掴んだから……」
「掴んでる?」
「ああ……」
「あ、ホントだ」
……気づいてなかったのか。
無意識に俺の腕を?
俺と楓坂が話をしていたから?
いや、どちらかというと、俺が楓坂に優しくしようとしたからか。
今までヤキモチなんて、ほとんどしなかったのに……。
すると楓坂は「クスッ」と嬉しそうに笑った。
「笹宮さん。私は一人で控室に戻りますから、もう少し会場内を見て回ってください。リサーチも大切ですよ」
「……ああ、気を付けろよ」
「子供扱いしないでください。それでは」
なんか、妙な気の使われ方をされてしまったな。
だが、今は結衣花のそばにいてやろう。
「じゃあ、今は楓坂に甘えて、他のブースのチェックに行こうか」
「うん」
■――あとがき――■
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次回、展示会で二人
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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