スタートはハプニング?


 六月第一週目の土曜日。

 ついに次世代AI展が始まった。


 俺が担当している四季岡ファミリアのブースは、事前の注目度もあってかなり人が集まっている。


 ゲーム開発で有名なザニー社とコラボをしていることに加え、疑似直感AIという全く新しい技術を使用しているのだ。

 当然の結果と言えるだろう。


 ブースの盛況ぶりを見ていた時、私服姿の楓坂が近づいてきた。


「……企業の人しか来ないと思っていたけど、家族連れも多いのね」

「土日開催に加えて、AIを使ったオモチャやゲームも多いからな」


 俺はすぐ近くで披露しているAI搭載の子犬ロボットを見た。

 庭を模したブースの中で子供達が楽しそうに遊んでいる。

 なんとも微笑ましい光景だ。


 他にも家電・ソフトウェア・さらにはドローンなど、多種多様なAIに関する製品が披露されている。


 楓坂はうずうずした様子で各ブースを眺めていた。


「気になるブースでもあったか?」

「ええ……。というより、全て気になるわね」


 楓坂は根っからのクリエイター気質だからな。無理もない。


「いざという時のために待機しているが、今日はほとんどやることはないんだ。別に見学をしたいなら自由にしていいんだぞ」

「そう? でも……」


 楓坂が何かを言いかけた時、被せるようにもう一人の女性が声を上げた。


「そうですよ。楓坂さんは一人で楽しんできてください。笹宮さんには私がいますから、どうぞごゆっくり」


 にっこりと笑ってそういうのは、我が後輩、音水遙だ。

 だがその表情とは裏腹に、言葉の端々にとげがある。


「……なぁ、音水。なんでそんなに楓坂を警戒しているんだ?」

「私、結衣花ちゃんのことは認めてますけど、楓坂さんには譲るつもりありませんから」

「……え? なにがどうなって結衣花の話が出てくるわけ?」

「笹宮さんはいいんです。女同士の友情の話ですから」


 話の脈絡がまったくわからんが、結衣花と音水に何かあったようだ。

 仲良くなるのはいい事だが、この緊張感は居心地が悪い……。


 ふと気づくと、楓坂がじとっと見ている。


「な……なんだよ。……楓坂」

「……別に。そう言えば、笹宮さんって音水さんのことをずっと気にしてましたものね」


 それに関しては言い訳できない。

 だが楓坂はここで攻撃にでる。


「まぁ、でも、おっぱい星人の笹宮さんなら、私の方がいいんでしょうけどね」

「俺、そんな奇妙な宇宙人になった覚えはないんだけど」


 そりゃあ男だからさ。

 胸をつい見てしまうことってあるさ。

 でも、だからとっておっぱい星人扱いはひどくね?


 ここで音水が驚愕の反撃に出た。


「甘いですね、楓坂さん。笹宮さんは熟女好きなんですよ」

「え!?」


 驚く楓坂! 俺も驚いた!


「ですので、年上の私の方が笹宮さん好みなんです」

「そうなの!? 笹宮さん!?」

「濡れ衣すぎるだろ!!」


 とんでもない誤解に俺は慌てて音水に詰め寄る。


「おい、音水。前にも何か勘違いしてたが、熟女好きなんて言ったことないだろ」

「言いましたよ。去年のコミケの時、休憩中に私に話してくれたじゃないですか」

「全く記憶にないんだけど!?」


 もちろん間違いだ。

 俺は決して熟女好きではない。


 だが、楓坂は動揺しながら俺の腕を掴んだ。


「え、ちょっと待って。熟女好き? 本当に驚いてるのだけど……。どういうこと? もしかして、笹宮さんもゆかりさんがいいとか思ってるの?」

「思ってねーよ。誤解だからな」

「でもそれなら、一緒にお風呂に入ったこともあるのに、なにも手を出してこなかったことも頷けるわ」


 それを今言うか!?


 当然すぐ近くにいる音水にも、一緒に風呂に入ったという情報は伝わる。

 音水はわなわなと震え出して、俺の腕にしがみついてきた。


「え!? お風呂!? 笹宮さん! どういうことですか!」

「いや、違うんだ。誤解されそうだが、わけがあるんだ」

「どんなわけがあったら一緒にお風呂に入るんですか!」

「そうだけどさ……」


 ダメだ。言い訳がまったく思いつかない。

 左右両方から女性に挟まれるという、一見うらやましい状況だが、生きた心地がしない。


 ヤバいぞ……。マジでヤバいぞ……。


 こうなったら!


「そ……それより、結衣花はどうしたんだろうなぁ~。遅いなぁ~」

「「話の逸らし方、下手すぎ」」


 なんか、変たところで二人がシンクロした。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、結衣花到着! どうなっちゃうの!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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