旺飼の真意
情報提供者と会うためにバラ園で待っていた時、現れたのはザニー社の専務・旺飼さんだった。
今まで裏で動いて、俺に秋作さんの危険性を伝えようとしていたらしい。
さらに結衣花の母・ゆかりさんを好きだったことを打ち明けた。
さすがのことに驚いた俺は、結衣花に小声で訊ねた。
「……なぁ、結衣花。こういう場合、どう反応すればいいんだろうな」
「お母さんと旺飼さんが幼馴染だったことは訊いたことあるけど……。うーん、驚天動地かな」
「そりゃ、天も驚くわ」
今までの話をまとめるとこうだ。
高校生の頃のゆかりさんは秋作さんのことが好きで、旺飼さんはゆかりさんのことが好き。
秋作さんもゆかりさんのことが好きだったけど、相手が女子高生だったので振ってしまう。
そのことでゆかりさんが傷ついたらしく、旺飼さんはそのことに怒って今も秋作さんとは仲が悪いということか。
しかもさぁ……。ゆかりさんも秋作さんも別の人と結婚してるんだぜ。
昼ドラみたいなドロドロじゃないか。
硬直する俺に旺飼さんが声を掛けてきた。
「いいかい?」
「あ、はい!」
「まず今回の一件で何が問題なのか言っておこう」
旺飼さんは落ち着いた様子で腕を組み、本来の話を切り出した。
その内容はもちろん、なぜ秋作さんが危険と言われているのかについてだ。
「疑似直感AIはね……。最強のハッキングツールになるんだ」
旺飼さんはようやく、秋作さんがやろうとしていることを話してくれた。
秋作さんが疑似直感AIのデータを公開しようとしていること……。
そうなった場合、管理が難しくなること……。
悪用された場合、ハッキングを始め、さまざまな悪用方法があること……。
なんでもこういった技術は悪用する側の方が有利になるため、セキュリティ側がどうしても後手に回ってしまうらしい。
現状のままだと、メリットよりデメリットの方が大きいそうだ。
「……とは言っても、僕は兄に対して嫉妬に似た感情を抱いている。単純に兄を否定したいだけなのかもしれない……」
悲し気に下を向く旺飼さんに、いつもの勝ち組のオーラはなかった。
よほど秋作さんのことが嫌いなのだろう。
だが、こうして一緒に仕事をすることもあるということは、心底憎んでいるというわけでもなさそうだ。
旺飼さん自身、自分がどうしていいのかわからなくて辛いのだろう。
すると結衣花が前に出て、旺飼さんに訊ねる。
「旺飼さん……。やっぱり、お母さんのこと、今でも好きなんですか?」
その質問に旺飼さんは苦笑いをしたが、意外にも素直に答える。
「そうだね。恋愛感情とは少し違うが、幸せになって欲しいという気持ちは今でも持っている」
だが、旺飼さんは再び下を向いて目を細くした。
「言ってしまえば、僕は負け犬なんだ。出世することにこだわっていたのだって、そんな劣等感から逃げるためだったんだよ」
以前、クリスマス前に旺飼さんと話した時『女性に縁がない』と言っていた。
あの言葉の意味はこういう事だったのだろう。
「……巻き込んでしまって悪かったね。もしかしたら笹宮君が僕を助けてくれるんじゃないかと思って頼ってしまった」
旺飼さんは俺達にゆっくりと頭を下げた。
もしかしたら腹黒いことを考えていたのかもしれないと疑ったが、『助けて欲しかった』というのが本音なのだろう。
今まで旺飼さんには散々助けてもらってきた。
だったら今は俺が助ける番じゃないか。
「旺飼さん。私に任せてもらえませんか?」
「どういうことかな」
「次世代AI展で全員が納得する発表方法を考えます。今なら秋作さんと話をする機会もあるので、できるはずです」
決意をまっすぐに伝える俺を見て、旺飼さんは驚きつつも瞳を輝かせた。
「……本当に君は成長したね。わかった。なにか僕に協力できることがあったら言ってくれ」
俺の気持ちが伝わったのかどうかはわからないが、落ち込んでいた旺飼さんに再び勝ち組のオーラが戻ってくる。
旺飼さんが去って言った後、結衣花が少しあきれたような顔をして近づいてきた。
「お兄さん……。任せてくれ~とか言ってたけど、ちゃんと先のことを考えて言ったの?」
「ああ、なんとかするさ」
「なんとかって?」
「それは……今から考える」
「一般的にそれって、何も考えてないって言うんじゃない?」
■――あとがき――■
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次回、楓坂と合流。その時、ハプニングが!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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