バラ園での待ち合わせ
正岡さんのはからいで、事の真相を知る人物に会えることになった俺達は、街から少し離れた場所にあるバラ園にやってきた。
このバラ園は東京に比べて少し早く開花するため、ちょうどゴールデンウィークが見頃になる。
広い園内を眺めなら、隣にいる結衣花に話しかける。
「バラ園って聞いた時はもっと小規模と思っていたが、想像以上に見ごたえがあるな」
だが結衣花の表情は少し暗いように見えた。
小さく相槌を打つと、寂しそうに話を続ける。
「楓坂さんも来ればよかったのに……。やっぱり私のせいなのかな……」
楓坂は残って、正岡さんから動画制作のコツを教えてもらうという事になった。
本職はそば職人なのに、プログラミングをしたり、動画制作もしたり……。
さすが四季岡ファミリアの元リーダーだけのことはある。
正岡さん曰く、そば打ちのノウハウは全ての技術に通じるらしい。
うーん。天才の発想力というのは、よくわからん。
とはいえ、楓坂がいなくて結衣花は不安を抱えているだろう。
ここは励ましてやらないとな。
「大丈夫だ。結衣花のせいじゃないよ。今は少しだけ調子が出ないだけさ。楓坂ならすぐにペースを取り戻すだろうぜ」
「うん。そう……だよね」
「もしなにかあれば、俺がなんとかしてやる。だから、結衣花が悩むことなんてないんだぞ」
相変わらず、俺の言葉には説得力がない。
楓坂のことなのに、いったいどうやって『なんとかする』というのだ。
結衣花は沈黙しつつも、驚いたように目を開いて俺を見た。
「前からそういうところあったけど、最近のお兄さんって引っ張ってくれる時が多くなったよね」
「そうか?」
「うん」
「迷惑か?」
「ううん。なんか……ホッとする。強引だけどね」
ホッとする? 強引なのにか?
男だとウザいって思う奴もいそうだが、女子高生だとそう考えるものなのだろうか。
ここで結衣花は、このバラ園に来た本来の目的に話を戻した。
「それより、どんな人が来るんだろうね」
確かに気になることだ。
だが、俺はなんとなく誰が来るのか予想がついていた。
「……もしかすると、俺達がよく知っている人かもしれない」
「心当たりがあるの」
「ああ……。というより、あの人しかいないと思うんだ」
正岡さんに噂を伝えられるということは、普段から秋作さんの近くにいる人という事になる。
同時に四季岡ファミリアの関わる情報について詳しい人物となれば、それほど候補は多くない。
なぜ少し前に敵だった黒ヶ崎が俺に忠告をしに来たのか?
なぜバベル社でバイトをしている女子高生の美桜が、縁談で俺と会うことになったのか?
この二つはどう考えても不自然なのだ。
そして……、
「おや。笹宮君に結衣花君じゃないか」
落ち着いた男性の声だった。
ほどよい長さで整えた髪に、スマートな立ち振る舞い。
四十代で長身のその男性は、普段のスーツとは違うカジュアルなジャケットスタイルで現れた。
「旺飼さん……。やっぱりあなたでしたか」
旺飼さんと秋作さんは兄弟だ。
この人ならこれまであった不自然な出来事全てに関わることができる。
さらに以前楓坂が言っていたこと。
秋作さんが屋敷に帰ってくると、旺飼さんは屋敷に帰ってこないという話。
この二人は兄弟で協力関係にありながら、その間には見えない溝がある……。
俺は旺飼さんの前に立って訊ねた。
「俺が秋作さんのことを疑うように誘導していたんですね」
「気づいていたのか」
「美桜との縁談……、おかしいと思っていたんです。年齢的にもおかしいし、なによりライバル企業のバベル社がそんな話をもってくるのは変ですからね」
「なるほど。さすがに無理があったか。まぁ、縁談という形にして欲しいというのは美桜君からの提案だったからね」
旺飼さんはポケットからタバコを取り出そうとしたが、結衣花がすぐ近くにいることに気づいて、そのまま手を出した。
「その通り。兄の危険性を伝えるために、私が仕組んだことだ。黒ヶ崎も君に話をしただろ? それも私が指示したことなんだよ」
「どうしてこんなまどろっこしいことを。直接言ってくれればいいじゃないですか」
そうだ。普通に話してくれれば、もっと話は簡単だったんだ。
しかし旺飼さんは、俺の疑問を一蹴した。
「そうかな? もし最初からすべてを話していたら、疑似直感AIなんてSFのような話を君は真剣に聞いたかね?」
「……それは」
そして旺飼さんは言う。
「なにより兄は私の……。いや、僕の想い人を傷つけたんだ。普通に話そうとしても冷静でいる自信がなかったんだよ」
旺飼さんの想い人……?
秋作さんが傷つけた?
確か秋作さんが振ったのは結衣花の母親、ゆかりさんだから……。
えぇぇぇっ!?
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、大人の三角関係!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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