海辺で写真撮影
海岸に到着すると、結衣花はスマホでいろんな場所を撮影していた。
今日は空も青いし、絶好の撮影日和。
インスタ好きの結衣花には持ってこいだろう。
それにしても、やけに念入りに撮影しているな。
「なぁ、結衣花。もしかして資料用か?」
「うん。気が向いたらできるだけ撮影するようにしているの」
なるほどね。
結衣花たちと知り合ってからわかるようになったが、クリエイターにとって自然の風景はそれだけで最高の資料になるようだ。
楓坂はインスタをしていなくても、料理とかは必ず撮影していたからな。
撮影を終えた結衣花は俺に近づいて、話をつづけた。
「それに撮影するのって、なんとなく絵の勉強になるような気がして」
「写真もひとつのアートだからな」
「これとかすごくいいと思うんだけど、どうかな?」
「どれどれ」
結衣花が撮影した画像をスマホに表示したので、俺は近づいて覗き込んだ。
ほぉ……。確かにいい写真だ。
海と空の色がすごく綺麗に映っている。
「あ……」
まるで音色のような声が結衣花からした。
そしてなぜか彼女は恥ずかしそうに、俺から少し距離を取る。
「どうした?」
「ううん。なにも……」
スマホを見るために近づきすぎたか?
いや、いつも俺の腕をムニっているんだから、それはないだろう。
あえて違いを上げるなら、俺の方から近づいたくらいなんだが……。
もしかして自分から近づくのはいいが、その逆だと恥ずかしいのか?
一方結衣花は、モジモジしながらチラリとこちらを見た。
「まだあるけど、見る?」
「ああ、こう見えて写真を見る目はかなりのものなんだぜ」
「ウソっぽいなぁ」
そう言いながら、結衣花は嬉しそうに近づいて、またスマホを見せてくれる。
「さすが絵を描いているだけあって、いい構図の画像が多いな」
「……うん」
「これとか……って、なんだ?」
気が付くと、今度は俺をじっと見ていた。
そのことを訊ねると、結衣花は「え?」と声をもらす。
「別になにも……」
「そうか……」
結衣花自身も俺を見ていたことに気づいていなかったという反応だ。
たまに結衣花は不思議な表情をするが、こういうのは初めてかもしれない。
ま、考えても仕方がない。
今はとにかく楽しむことを優先しよう。
「なんなら撮影してやろうか?」
「お兄さんが?」
「ああ。せっかくだし記念にと思ってな」
「ん~。じゃあ、一緒に撮らない?」
「俺も?」
「記念でしょ?」
まさか俺と一緒に撮りたいと言い出すとは……。
だが結衣花が喜んでくれるなら、それでいいか。
「じゃあ、ここに立って」
「おう」
結衣花に言われるように、俺は背中を海に向けて立った。
そして結衣花は俺の隣に立って、スマホを自撮りモードにする。
「……腕、掴んでもいい?」
「いつも掴んでるだろ」
「そうだけど、いいのかなと思って」
「今さら遠慮なんてするなよ。いつでも掴んでいいぞ」
「うん。ありがとう」
腕を掴んだ結衣花は、いつもより体をくっつけてくる。
掴むというより、これはもう腕を組んでいるのでは?
……いや、抱きついている状態だ。
柔らかいものが触れるのを感じて、俺は少し恥ずかしくなった。
「ホント、お兄さんの腕って不思議な感触がするよね」
「俺にはその感性が理解できん」
「いつかお兄さんにもわかる日がくるよ」
「また上から目線か。なまい……」
生意気な女子高生だと言おうとした時、結衣花が持つスマホがパシャリと音を鳴らす。
「あ……。変な顔の時にシャッターが……」
「ふっふっふ。計画通り」
「はぁ!? 今のわざとなのか!?」
「うんうん。いい顔が撮れているね」
「うおっ! 俺の顔がすっげぇマヌケだ! 撮り直してくれよ」
「やだ。私はこっちの方がいいもん」
「なんでだよ」
「だって、普段のお兄さんっぽいし」
「俺の評価、低すぎない?」
それからしばらく別の景色を楽しんで、俺達のドライブは終わった。
蒼井家に結衣花を送り届けると、時刻はまだ午後の二時過ぎだ。
いろいろと楽しんだように感じたが、それほど時間は経過していない。
それだけ充実した時間だったという事か。
「お兄さん。今日はありがとう」
「ああ。じゃあ、明日な」
「うん」
結衣花が自宅に入っていくのを確認してから、俺は自分の家に帰ろうとした。
だが、少し移動した先にある赤信号で停車していた時、歩いているメガネを掛けた女性と目が合う。
それは……、
「楓坂?」
「笹宮さん?」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、楓坂との間になにが起きるの?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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