海へドライブに行こう


 日曜日。

 結衣花とドライブに行くことになった俺は、自家用車のSVRに乗って蒼井家に到着した。


 出迎えてくれたゆかりさんは、凛とした空気を漂わせつつも、優しい表情で微笑む。


「笹宮君、いつも結衣花の面倒を見てくれてありがとう」

「いえ、そんな。こちらもドライブは楽しいですし」


 むしろ面倒を見てもらっているのは、俺の方かもしれないというのは黙っておこう。


「ドライブかぁ……。主人があまり車に乗らないから、うらやましいわ」

「よかったら、ゆかりさんとご主人も来ますか?」

「あなた、アホなの?」


 車に乗り込んだ後、俺は助手席に座った結衣花に訊ねた。


「なんでアホって言われたんだろう」

「なんでわかんないんだろう」


 俺としては気を利かせたつもりだったのだが、どうやら失敗してしまったようだ。

 やはりコミュ力というのは奥が深い。


「とりあえず海岸沿いを走るつもりだけど、どこか行きたいところはあるか?」

「えっと……、言っていいの?」

「遠慮するなよ」

「ホント?」

「任せろ」


 ドライブの行先で遠慮するなんて、結衣花も初々しいところがあるじゃないか。

 出会った直後は生意気で図々しいと思っていたが、やっぱり普通の女の子なんだよな。


 そして結衣花はドライブの行先を告げた。


「じゃあ、コンビニ。カフェオレが飲みたいなぁ」

「……おごりってわけっすか」

「うん」


 どうやら遠慮がちなしぐさは、ドリンクをおごってもらうための布石だったようだ。


 コンビニでそれぞれの飲み物を買って車内に戻ると、結衣花はウキウキした様子でカップホルダーにドリンクを置く。


「お出かけ前のコンビニって、なんだか楽しいよね」

「それ、わかるよ」


 ドライブに限らずだが、目的地に到着するよりも向かう途中の方が楽しい場合がある。

 まさに今がそれだった。


 結衣花は上機嫌で俺が購入したコンビニのアイスコーヒーを手に取る。


「お兄さん、ストロー刺してあげるね」

「お、ありがとう」

「一口目、頂き」

「やると思ったよ」


 ストローを刺してすぐ、結衣花は俺のコーヒーを飲んだ。

 だが、ブラックになれていない彼女は、表情をぐにゃっと歪める。


「にっが! ん~。少しはブラックも飲めるようになったと思ったのに」

「あそこのコンビニのコーヒーは苦味が強めだからな」


 ホットだと温度の影響でまろやかに感じるけど、アイスにすると苦味が強くなる場合があるんだよな。


 俺は結衣花からコーヒーを受け取ると、そのままストローを咥えて一口飲んだ。


「お兄さんって間接キスとか全然気にしないよね」

「今時気にする奴なんていないだろ」

「相手によるんじゃない?」

「そうか?」


 まぁ、そうかもな。

 女子高生と間接キスをしたと言ったら、かなり問題があるような気がする。


 でも結衣花との付き合いも長いから、そういう警戒心がいつのまにか薄くなっていた。


「あ、海が見えた」


 結衣花の声が聞こえた時、正面の向こう側の隅に青い海が見えた。

 春になってからは、これが初めてだろう。


「今日は青空が広がっているから、いつも以上に綺麗に見えるな」

「うん」


 そして結衣花は俺の方を見て、声を弾ませた。


「夏休みになったら、自動車の免許を取る予定なんだよね」

「もう十八だもんな」

「そしたら、今度はお兄さんを助手席に乗せてあげるね」

「嬉しいが、怖いな」

「えー。ひどい」


 そうは言うが、免許取り立てのドライバーの横に乗るのって、結構怖いんだぞ。


 たまに助手席でブレーキ踏みそうになったりするんだよな。


「それにしてもイラストの仕事もして、進路も考えるのようになって、そして車の免許か。結衣花はどんどん成長していくな」

「お兄さんに追いつくのも、もうすぐかもね」

「抜かれそうで怖いよ」


 実際、結衣花を見ているとそんなふうに思う時がよくある。


 いくら会社で仕事をしているとはいえ、俺には技術と呼べるものがない。


 一方、結衣花や楓坂にはクリエイターとしてのスキルがある。

 いや、才能と言うべきだろう。


 そこに壁を感じてしまう時、正直俺はさびしいと思う。


 そんなことを考えていた時、結衣花が自分のカップを俺に差し出してきた。


「私のカフェオレも飲んでみる?」

「ああ。……おっ。意外と美味いな」

「でしょ。たまには甘さを味わうのもいいんだって」

「そうだな」


 なるほど。

 たしかにこの甘さは癒しになる。


 カフェオレもたまには悪くない。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、海でパシャリ!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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