誰とデートしたい?
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
翌日の朝。
通勤電車でいつものように結衣花と話をしていた。
今日の話題は、昨日あったエレベーターのトラブルについてだ。
あんな経験をすることはめったにないので、俺は自慢げに語っていた。
だが、結衣花はどこか冷ややかだ。
「エレベーターの中に閉じ込められたんだ……。後輩さんとねぇ……。ふぅ~ん」
これはきっとなにかを怪しんでいるに違いない。
誤解を放置すると、そのあと大変なことになる。特に結衣花は……。
ここはきっちりと言っておいた方が良さそうだな。
「いちおう言っておくが、変なことは何もしてないからな」
「つまり、変なことになりそうにはなったと?」
「……」
しまった。
よけいなことを言ったせいで、勘ぐられてしまった。
確かに昨日、俺と音水はキスをする直前まで行った。
あと少し救出が遅ければ、場の空気に流されていたかもしれない。
音水とは先輩後輩の関係を続けていくと決めているが、結局どこかで期待しているのだろう。
こんな不純な気持ちを結衣花だけには知られたくない。
よし。話題を逸らそう。
「そんなことよりだ」
「あ、話逸らした」
「チャーハンに醤油ってかける?」
「しかも話題が陳腐すぎるし……」
速攻で俺の企みは見抜かれ、即座にバカにされてしまった。
待ってくれよ。チャーハンに醤油をかけるか、ソースをかけるかは重要な選択肢だろ?
「……えっと、私はなにもかけない派かな」
「そうか。実は俺もなんだ」
「じゃあ、なんでそんな質問をしたの?」
「俺にもわからん」
話を逸らそうとして無理に話題を振ったせいで、ボロが出まくっている。
俺、本当にコミュ力ないなぁ……。
「話を戻すけど」
「せっかく逸らしたのに」
「逸らし方が下手すぎるから無視」
ついに無視されちゃったよ。
わずかに落ち込む俺を尻目に、結衣花は淡々と話をつづけた。
「この際だから、気になる人をデートに誘ってみたら?」
デートに誘う? 俺が?
何を言っているんだ。
つい今しがた、コミュ力のなさが露呈したばかりの俺にデートに誘えだと?
「……いや、無理だろ」
「いちおうデートっぽいことは何度かしてるじゃん。あんまり深く考えずに、気軽に考えればいいんじゃないかな?」
「そんな柔軟性が俺にあると思うか?」
「ないね」
「即答すぎ」
ここで結衣花は視線を床に向けた。
たまに見せる結衣花のクセだ。
「実際さ、楓坂さん、今すごく揺れ動いてるからそろそろ決めた方がいいと思うよ」
「……楓坂になにかあったのか?」
「海外の映像作成会社から誘われているんだって」
「……海外で仕事をするってことか?」
「もしかしたらリモートワークでなんとかなるかもだけど」
楓坂がどこかに行ってしまうかもしれないと感じて寂しいのだろうか。
コミュ力があるとはいえ、結衣花は基本的に受け身のタイプだ。
本当は行って欲しくないのだろう。
だが本格的にプロの映像クリエイターを目指したいという楓坂の気持ちも大切にしてやりたい。
それなら自分の気持ちを明かさずに、応援をする方がいい。
結衣花ならきっとそう考える。
ったく! なんなんだよ!
本当はさびしいなら、それこそ俺に相談してくれよ!!
よし! 決めた!
「結衣花はどこか行きたいところとかないのか?」
「え? なんで私?」
俺の申し出に、結衣花は豆鉄砲を食らった鳩のように驚いた。
気になる人をデートに誘うという話だったから、まさか自分に声が掛かると思っていなかったのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
目の前で相棒が落ち込んでいるんだ。
ここで元気付けてやれなかったら、ダサすぎるぜ。
「深い理由はない。さっき結衣花が言った通り、気軽に考えてくれ」
結衣花は照れたように視線をあちこちに移動させた後、俺の腕を掴んだ。
「まぁ……。デートとかじゃないけど、またドライブは行きたいかな」
「そう言えば、結衣花は車が好きだったもんな」
「うん」
よし、決まりだ。
次の休みは結衣花とドライブに行こう!
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
【書籍版のPVが、甘粕冬夏のTwitterで公開中です!】
次回、ドライブはどこで!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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