結衣花と洗濯物をたたもう


「え!? スイーツの女体化キャラ?」


 驚きの声を上げたのは結衣花だ。


 今俺は自宅で洗濯物をたたみながら、結衣花にテコ入れ案の内容を伝えていた。


「最近、馬の女体化キャラのゲームが流行ってるんだ。そこから思いついたんだよ」

「あー、あのゲームね。私もやってるよ」


 マーケティングの天才小学生・紫亜の情報と、音水の企画アイデアリスト。

 この二つから導き出したテコ入れ案が『スイーツ少女たちのオリジナルフォトカード』だ。


 各スイーツ店に一キャラを用意して、訪れると好きなキャラクターのシールを貰うことができる。


 それを背景だけ描かれたシートに貼ることで、自分だけのオリジナルフォトカードを作れるというわけだ。


 このテコ入れ案をクライアントはとても気に入ったらしく、話し終えて二つ返事で了承がでた。

 

 しかも予算も追加。

 願ったり叶ったりだ。


「スイーツキャラは全部で十人以上描く必要があるからデザイナー不足なんだ。結衣花も手伝ってくれるか?」

「うん。ちょうど紙袋のデザインもできたし、いいよ」


 すると結衣花はタブレット端末を取り出して、画面に紙袋のデザインを表示した。


「ほぉ、これは……」

「いいでしょ」


 新しい紙袋のデザインはオリジナリティだけじゃなくて、今までのデザインをイメージできるようになっている。


 これは固定客の人にはなじみと新鮮さを与えることができ、さらにブランディングの継続にも繋がっていた。


 新しいだけじゃなく、お客さんの気持ちを考えてデザインしている。


 成長したな、結衣花。


「ねぇ、お兄さん。どうかな……」

「ああ、すごくいいよ」

「……それだけ?」

「めちゃくちゃいいぞ」

「……」

「最高にうえーいな気分だ」

「バカにしてるの?」


 結衣花のボディブローのようなツッコミが俺の心をえぐる。

 だって、いい言葉が思いつかなかったんだもん。許してくれよ。


 タブレット端末を閉じた結衣花は諦めるようなため息をついた。


「相変わらず、褒めるのが下手だなぁ」

「神は二物を与えずというからな」

「一物も与えられてないのに?」


 言いたい放題である。

 まぁ、これが蒼井結衣花という女子高生なのだが。


 しかし、ここまでキレのいいツッコミは久しぶりのような気がする。


「結衣花。なんか調子が戻ったみたいだな」

「……やっぱり、スランプだったのバレてた?」

「薄々ていどだけどな」


 すると結衣花は俺のすぐ隣に座って、近くにあったバスタオルをたたみ始めた。


「私ね。いつの間にかいい絵を描かないと人に嫌われるかもしれないって思うようになってたの……」

「そんなことは……」

「うん、わかってる。でも、なかなか吹っ切れなくて……」


 すでにほとんどの洗濯物はたたみ終えていた。

 しかし結衣花はゆっくりと、綺麗にたたむ。


「でも、この一ヶ月でデザインにもいろんな表現方法があるってわかって気持ちが楽になれたの。なんだか自分を縛っていたものがなくなったみたい」


 そんなふうに思っていたのか。

 スランプって他人からだとなにが起きているのかわからないけど、結衣花にとっては大きな成長の肥やしになったのだろう。


 いつもの淡々としたフラットテンションだが、いつも以上に自然体で優しい表情をしている。


「お兄さん、ずっと私を支えようとしてくれていたんだよね。ありがとう」

「言っただろ。俺の後輩になったらサポートするって。今はどっちかっていうと相棒みたいなもんだが、もっと頼ってくれていんだぞ」

「うん」


 すると結衣花は俺の腕を掴んで二回ムニった。

 そしてそのまま体重を俺に預けるようにして、腕を組んでくる。


 ……洗濯物の心地いい香りがした。


 結衣花の大きな胸の感触が腕に伝わってくる。


 照れくささとと、いけないことをしているような気持ち……。

 だが彼女のやすらかな表情を見ると、とても振りほどくことなんてできない。


「そろそろ、ツッコミをするつもりだろ。先刻承知だぜ」

「今はそういう気分じゃないから」

「じゃあ、どういう気分なんだよ」

「お兄さんは知らなくていいの」


 結衣花は体を揺すって、俺の腕の感触を確かめていた。


 このままずっと一緒にいてあげたい。

 そんな気持ちが湧いてくる。


 もし社会人と女子高生という関係でなければ、きっと俺達は付き合っていたんだろうと思う瞬間だった。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、ゆかりさんが登場! 今度の登場シーンはどうなるのか!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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