ホワイトデーのアトラクション
楓坂の父、秋作さんの計らいで俺と結衣花はショッピングモールのイベントホールで行われている特設アトラクションを体験することになった。
「リアルファンタジー・ザ・ダンジョン。……宝箱を探せ?」
アトラクション入口の看板は、ドラゴンとそれに立ち向かう勇者と女魔法使いのイラストが描かれていた。
「お兄さんはこういうの知らないよね。これはウォークタイプのアトラクションだよ。迷路みたいなところを歩いていくと、いろんな仕掛けがあるかんじかな」
「お化け屋敷みたいに歩いていくやつか」
「うん。テーマパークとかでよくあるけど、大きなショッピングモールでもたまにやってるんだよね」
そういえば楓坂が仕掛けたバスのラッピング広告は、ドラゴンのトリックアートだった。
どうしてドラゴンなのか気になっていたが、こういうことか。
入口をくぐると小部屋があり、正面モニターに白いマスコットキャラが現れた。
うさぎのようにも見えるが、子犬のようにも見える。
まぁ、かわいいのは間違いないが。
マスコットキャラはくるりと回ると可愛らしく説明を始めた。
『やぁ、冒険者の諸君。よく来たね。ここからは魔王に支配された世界を救うために旅に出てもらうよ』
結衣花はゆるキャラを描くのが得意だからな。
きっとこういうのが好きなんだろうぜ。
表情はいつものままだが、きっと心の顔は目をキラキラ輝かせているかもしれない。
すると彼女は言う。
「最近のアニメだと、この妖精の正体が諸悪の根源だったりするんだよね」
「夢をぶった切るようなことをスタート地点で言うなよ」
こうして俺達はアトラクションを始める。
結衣花が言っていた通り、歩いて進むタイプでスタート地点は洞窟のシーンを再現していた。
「予想していた以上に狭いね」
「そうだな」
やはり初体験ということもあり、結衣花の声には緊張が見られた。
俺の前では生意気なフラットテンションだが、本当の結衣花は気弱な女子高生だからな。
結衣花は俺の腕に掴まろうとするが、すぐに引っ込めてモジモジしている。
「いつもみたいに腕を掴まないのか?」
「……うん」
どうもさっきから俺と距離を取ろうとしているんだよな。
紫亜となにか話していたらしいが、それと関係しているのだろうか。
そういえば俺と結衣花の相性がいいとか言っていたらしいし、変なことでも吹き込まれたのかもしれない。
――と、その時だった!
「ぶるぁあぁぁぁぁぁ!!」
「うぉ!?」
突然現れたのはドラゴンの姿をしたモンスターだ。
まったく予告なしで現れたので、さすがの俺も驚いてしまった。
ドラゴンは俺が驚いたことに満足すると、そのまま隠し扉に戻っていく。
「ぷぷぷ。お兄さん、ガチでびびってた」
「棒読みで笑わうな。それにびびってない」
「はいはい」
そこからしばらく歩くと、今度は噴水がある部屋に到着する。
暗い部屋に青の淡い照明が、雰囲気を押し上げていた。
「しかし凝ってるな。即席で作ったアトラクションとは思えない」
「うん、すごく綺麗」
むにっ。
さっきまで距離を取っていた結衣花が俺の腕を掴んだ。
「ぁ……、ごめん」
「いいんだ。そのほうが俺も落ち着く」
「えっち」
「どこがだよ」
そして次の部屋に進もうとした時、再びドラゴンが現れる。
だが……、
「ぶるぁあ、……あ!? ……ぶるぅ……」
結衣花が俺の腕に掴まっていることに気づいたドラゴンは、声を小さくしながら帰ってしまった。
「ドラゴンさんがフェードアウトしていく」
「たぶん俺達がカップルだと思って気を利かせたんだろうな」
「私達、カップルに見えるのかな?」
「まぁ、今時、十歳差のカップルはめずらしくないだろ。それに結衣花は落ち着いているから、俺と並んでも違和感ないしな」
こちらを向いた結衣花は、とても静かに訊ねてきた。
「そう……なの?」
「ああ」
「じゃあ、私はこのままでもいいってこと?」
「そりゃあそうだろ。いまさら何言ってるんだ」
「そっか」
「なに笑ってんだよ。変なやつ」
「いいの。お兄さんはもっと変だから」
「予想外のブーメランを食らっているんだが?」
こうしてアトラクションを終えて、俺達は外へ出た。
閉塞感から解放された瞬間の清々しさは格別だ。
俺は、ん~っと伸びする。
「ふぅ……、なかなかよかったな」
「うん。短かったけど、面白かった」
すると結衣花は俺の腕を掴んだまま、ぽつりと呟く。
「あの……」
まぁ、言いたいことはわかるさ。
「もう少し、このままブラブラするか?」
「うん」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、結衣花と自宅でまったりタイム。
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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