結衣花の部屋


 日曜日の午後。

 特にやることもなく、俺は部屋でまったりとくつろいでいた。


 その時、スマホにLINEの着信が入る。


『こんにちは。お兄さん』

『よぉ、結衣花』

『突然だけど、こっちきて』

『それは結衣花の部屋にということか?』

『うん』 


 本当に突然だな。

 しかも結衣花の部屋に? なんだろう? 昼食はもう食べたし、夕食には早い。

 もしかしてスイーツタイム? 結衣花ならありえるか。


 まぁ、断る理由もないし、行ってみよう。


 お隣とはいえ、結衣花の部屋に入るのはこれが初めてだ。

 さすがに部屋着のままだと恥ずかしいので、外行きの服に着替えて俺は玄関を出た。


 そしてすぐ隣にある結衣花の部屋の前に立って、インターホンを鳴らす。


「俺だ。来たぞ」


 するとドアを開いて結衣花が顔を出した。


「ようこそ、素晴らしき私の部屋に」

「フラットテンションで冗談っぽく言われても、すごく違和感があるんだが」


 こうして俺は結衣花の部屋に上がった。


「へぇ、ここが結衣花の部屋か。綺麗じゃないか」

「もぉ、ジロジロ見ないでよ」

「悪い」


 女の子らしい可愛いインテリアで、クマとネコのぬいぐるみが部屋の中央に置かれていた。


 リビングの端に勉強机があり、中央にはローテーブルがある。


「それでどうしたんだ?」

「んー」

「なんだよ……」

「ゲーム……したいなと思って……」


 わざわざ呼び出したから特別なことがあるのかと思ったが、ゲームだったわけね。

 まぁ、俺も時間を持て余していたしちょうどいいさ。

 日曜日の午後って、ダラダラしちゃうんだよな。


「わかった。じゃあ、一緒にやろうか」

「ホント?」

「ああ、俺も時間を持て余していたんだ。それにしても結衣花って優等生っぽいけど、かなりのオタクだよな」

「いいもん。自覚してるし」


 部屋を見る限り本は少ないが、結衣花はアニメや漫画が好きだから、きっと電子書籍とかかなり買い込んでいると見た。


 もしかすると実家にある本棚はすごいことになっているかもしれない。

 こういうギャップって可愛いよな。


「こっち座ってて。飲み物は何がいい?」

「オススメは?」

「う~ん。煎茶?」

「いいな。それで頼む」


 基本的に俺はコーヒー派なのだが、結衣花といる時はなぜか煎茶を飲みたくなる。

 なんというか縁側のお爺さんみたいな気分になるからだ。


 今まで社畜人生まっしぐらだったけど、ぼ~っと暮らすのも悪くない。

 って、二十七歳で考える事じゃないよな。


 と、ここでキッチンの方から音がした。

 ほぼ同時に結衣花が「きゃっ!?」と声を上げる。


 どうやら何かを落としたようだ。


「……大丈夫か?」

「う、うん。ごめん、すぐお茶を用意するからね」


 ハイスペック女子高生というイメージが強い結衣花でもこういう一面があるんだな。

 なんか微笑ましい。もっともそんなことを言ったら怒られるんだろうけど。


「お待たせ」

「おう」


 結衣花は急須に入った煎茶を湯飲みに入れ、俺の前に差し出した。

 すぐに飲むと火傷をするので、少しだけ温度が下がるのを待ってから一口飲む。


 淹れたてということもあり、爽やかな煎茶の香りが鼻を抜ける。


「ふぅ……、煎茶ってなんか落ち着くよな」

「和の文化って感じだよね」


 そう、それ。

 わびさびって言うんだろうか。


 和の文化を堪能しながら癒される瞬間って、すごく気持ちが軽くなるのに頭が冴えていく。


 こういう瞬間って、理屈抜きでとても心地いい。 


「それで、ゲームってなにするんだ?」


 そう訊ねると、結衣花は不思議そうな顔をした。


「ゲーム?」

「ゲームするために俺を呼んだんだろ?」

「あ、うん。そうだったよね」


 んんん? さっきからどうしたんだ?

 キッチンで物を落としたり、誘ってきた本人がゲームのことを忘れていたり。


 もしかして俺を部屋に呼んだから緊張しているのか?


 見ると結衣花は顔を赤くして、そっぽを向いた。


「べ、別にお兄さんが部屋に来たから緊張しているわけじゃないからね」

「ふっ、わかってるよ」


 そして結衣花はスマホを取り出して、ゲームを立ち上げた。


「これ。連係プレイのゲームだから一緒にやろうと思って」

「それなら俺もインストールしているぞ」

「そうなんだ。強いの?」

「ふっ……。愚問だな」

「弱いんだ」


 のんびり、まったり。

 こういう時間の過ごし方が俺達にはちょうどいい。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、音水が大活躍!? それとも暴走!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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