紫亜のスキル
楓坂の父、秋作さんが協力者として紹介したのは紫亜だった。
だが、紫亜はまだ小学生。
これはどういうことなのだろうか。
戸惑う俺は訊ねずにはいられなかった。
「マーケティングの天才? どういうことですか?」
秋作さんは優しい微笑みを浮かべながら、指でメガネの位置を整えた。
「驚くのも無理はありませんよね。紫亜さんは『人が何に影響を受けているか』という事を見抜く力が特化しているんです」
「それはどういうことですか?」
「じゃあ、試してみましょう。紫亜さん、笹宮君を見てあげてください」
紅茶を飲んでいた紫亜は秋作さんに呼ばれてカップをテーブルの上に置き、俺の方を見てニカッと笑う。
「うんっ! えっとね、お兄ちゃんの好きなアニメは『ご注文は子猫ですか』だよ」
「なっ!?」
ご注文は子猫ですかとは、かわいらしい少女たちが登場するほんわか少女アニメだ。
略して『ごち猫』と呼ばれている。
人気作ということでなんとなく見始めたのだが、疲れて家に帰った時にみるとリラックスできるのでハマっている。
だが少女アニメを俺のようなクールな男が見ているとバレるとイメージが崩れるので、周囲には黙っていた。
「ななななんの、ここここことかな……」
「ふふふ。笹宮君は隠し事が苦手のようですね。ちなみに僕もごち猫は好きですから恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
「……」
くぅ……。まさかここで秘密がバレるとは……。
だが、俺がごち猫の影響を受けているのは事実だろう。
ということは紫亜のスキルは本当ということか。
俺が納得したことを察した秋作さんは穏やかな声で話を続けた。
「結論を言うと紫亜さんがいれば流行のパターンがすぐにわかるということです。調子がいい時はビッグデータの分析をAIよりも正確に言い当てることもあります」
「それはすごいですね」
俺達がゆかりさんのチームに負けたのは、一言で言うと経験の差が大きい。
だが紫亜の力があれば、その差を埋めることができるかもしれない。
だが、気になることもあった。
「……あの、秋作さんは舞さんの父親ですよね? どうして私の手助けをしてくれるんですか?」
「あはは、鋭い質問ですね。……そうですね。実は今すぐではないのですが、笹宮君にお願いしたいことがあるんですよ」
「お願い……ですか?」
「はい。その時が来たらお話します」
◆
秋作さん達と別れた俺はその日の仕事を終えて、自宅へ帰った。
協力者を得られたことは心強いが、驚きの連続でさすがに疲れた。
今日はゆっくりしたいところだ。
玄関の前に立つと、部屋の中から気配がする。
きっと結衣花が夕食の支度をしてくれているのだろう。
安心感を覚えながら、俺は玄関のドアを開けた。
「おかえりなさい。お兄さん」
「ただいま、結衣花」
靴を脱いで部屋の中に入ると、すでに夕食の準備がされていた。
「悪いな、遅くなって」
「ううん、大丈夫」
すると結衣花は両手を前に出す。
まるでプレゼントを貰うようなしぐさだが……。
「なんだ?」
「デパートで打ち合わせをしたんでしょ? だったらお土産あるのかなぁっと期待しています」
「あのなぁ、俺は仕事で行ってるんだぞ。お土産なんて……」
……と、わざとらしく苦々しい顔を作った俺は続けて、
「あるぞ」
「ドヤ顔してるけど、紙袋が見えてたからね」
それから夕食とデパ地下で買ったお土産を食べながら今日の話を結衣花にした。
「へぇ~、紫亜ちゃんってそんな特技があったんだ」
「ああ、俺も驚いたよ。それでなんだが、紫亜をショッピングモールに連れて行くことになったんだ」
「敵情視察ってこと?」
「ああ。といっても、向こうをブラブラするだけだ。それで結衣花。頼みがあるんだが一緒に来てくれないか? 俺一人だと紫亜を見る自信がないんだ」
「お兄さん、紫亜ちゃんに遊ばれてるもんね」
「あいつ生意気なんだよ」
「いじけないの」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、お出かけの準備をする笹宮。一方、音水も動く!?(ラブコメ的に)
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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