協力者


 協力者を紹介する。

 楓坂父が差し出した手紙にはそう書かれていた。


 疑問はいくつもあったが、俺は待ち合わせの喫茶店へ向かう。

 するとそこにいたのは、度々会っていた生意気な小学生、四季岡しきおか紫亜しあだった。


「紫亜……、なんでここに……」

「お兄ちゃんこそなにしているの?」

「俺は……仕事で協力してくれる人と待ち合わせなんだよ」

「ふぅん。てっきり紫亜をナンパしにきたのかと思ったよ」

「んなわけねぇだろ」

「どうかなぁ。紫亜って女子力高めだもんっ」

「マセガキめ……」


 可愛らしさを主張するように、紫亜はトレードマークの白いベレー帽の位置を調整する。

 そしてドヤ顔でこちらを見た。

 キラリンと光る瞳が、ナンパしてどうぞと語っている。


「とにかく俺は今日仕事できたんだ。悪いが紫亜の相手をする時間はない」

「そうなんだ。じゃあ、お兄ちゃんがお父さんのお客さんなんだね」

「お父さん?」

「うん。すぐに戻って……、あっ! お父さん! お客さん来てるよっ!」


 紫亜の視線の先を見ると、スーツを着たスマートな男性がトレイを持ってやってきた。


「やあ、笹宮君。お待たせしました」


 メガネを掛けた優男。

 見た瞬間に思った印象はまさしくそれだ。

 そして楓坂によく似た女神スマイル。

 男性ではあるが、優しさがこれほど全面に現れている人は初めて見るかもしれない。


「直接会うのははじめてですね。僕は楓坂秋作しゅうさく。よろしくお願いします」

「あ、はい……。笹宮和人です。よろしくお願いします」


 この人が楓坂の父親……。

 そして旺飼さんのお兄さんなのか。


 だとすると四十代中頃だよな?

 でも見た目はかなり若い。二十代に見える。下手をすれば俺より年下に見られるんじゃないか?


 秋作さんはニコニコ笑いながらテーブルに紅茶の入ったカップを置く。


「ちょうど笹宮君の姿が見えたので飲み物を取ってきました。あ、紅茶ですけどよかったでしょうか?」

「はい。その……ありがとうございます」


 秋作さんが席に着いたので、俺は促される形で前に座る。


「紫亜さんの分も持ってきましたよ」

「紫亜、甘いのがいいーっ!」

「じゃあ、シロップを使いましょう。自分で入れますか?」

「うんっ!」


 様子から察するにやはり紫亜は秋作さんの娘ということか。

 ということは楓坂の妹?

 もしそうだとすると全然似てないな。

 どっちかというと結衣花に似ているような気がするけど。


 俺の視線に気づいた秋作さんは爽やかに笑って体をこちらに向けた。


「舞さんから君の話は聞いています。楓坂家の問題を解決してくれて本当にありがとうございました」

「いえ、そんな……。俺……じゃなくて、私は特別なことはなにも……」

「ふふふ。いつも通りの喋り方でいいですよ」

「は……はい」


 ……どうもやりにくいな。

 優しいんだけど、主導権を握られているというかなんというか。


「舞さんとは数年間うまくいかなくて、本当に悩みました。ですが笹宮君のおかげで今は仲良く会話をすることができます」


 そう語る秋作さんの表情はまさしく父親のものだった。

 俺は子供はいないが、娘を持つ父親の葛藤というのは理解できなくもない。

 こう見えて、結構苦労しているのだろう。


「楓坂……舞さんは元気でしょうか?」

「ええ、数日前まで僕も向こうにいましたが、とても元気でしたよ。手料理を作った時は驚いて腰を抜かしそうになりましたけどね」


 秋作さんはその時のことを思い出してクスクスと笑った。

 まぁ、俺も楓坂が家事音痴だった頃を知っているから、その驚きはわかる。


「そうだ、笹宮君。今度、うちに遊びに来ませんか? こう見えて僕は料理が趣味なんです。よかったらご馳走させてください」

「はい、ぜひ」

「ふふふ。これは楽しみが増えましたね」


 すると隣に座っていた紫亜が身を乗り出して声を上げた。


「紫亜も作るっ! お料理したいっ!」

「じゃあ、一緒に作りましょうか」

「わぁ~い」


 生意気な小学生だと思っていたが、父親の前だとやっぱり子供だな。


 しかしなんで苗字が違うんだ?

 それとも四季岡というのは紫亜が勝手に名乗っているだけなのだろうか。


 気にはなるが、あまり追及しづらいところだな。


 と、ここで秋作さんは本題を切り出した。


「ところで笹宮君に紹介したい協力者なのですが、それがこの紫亜さんなんです」

「えっと……、失礼ですが小学生に見えるのですが……」

「はい。まだ小学四年生です」


 えっ、マジで!?

 ということはまだ十歳ってことか?


「ふふふ、驚いていますね。でも安心してください。彼女はマーケティング解析の天才なんですよ。あの弟ですら彼女を頼りにするくらいですからね」

「え!? 旺飼さんが!?」


 旺飼さんはザニー社の専務で、マーケティングのスペシャリストと言われている人物だ。


 そんな人が頼りにするほどの実力?

 どういうことなんだ?



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、紫亜の実力が明らかに!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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