社用車で移動中、音水と?
これから外回りに行くため、俺は社用車に乗って準備をしていた。
すると音水が助手席に乗り込む。
「お待たせしました」
「おう。じゃあ、行こうか」
「はい!」
これから俺達はデパ地下の案件について担当者と打ち合わせをすることになっている。
本格的に春フェアが始まるのはもうすぐ。
週明けにはテコ入れ案を提出しなくてはならない。
道路を走行中、隣を俺達が手掛けたラッピング広告を貼ったバスが通り過ぎて行く。やはりいい出来だ。
「バスのラッピング広告、いい反響ですね」
「ああ。ゆかりさん達には遅れを取ったが、仕事としては成功しているんだよな」
「高級なイメージを大切にしたデパ地下でドラゴンのトリックアートはできませんしね」
「だな」
デパ地下とショッピングモールのニーズは似て非なるものだ。
確かにインパクトでは劣るかもしれないが、結果的にこちらは得るものの方が多かった。
ふと音水が訊ねてくる。
「笹宮さんは落ち込んでいたりしないんですか?」
「正直、自信があったから多少へこんだが、いつまでも落ち込んでられないしな」
「そうなんですね」
さすが音水だ。
きっと俺のことを気遣ってそんなことを聞いてきたんだな。
いい後輩じゃないか。
すると音水は「はぁ~」とため息をつく。
「落ち込んだ笹宮さんに優しくして、私の好感度をアップしようと思っていましたけど無理のようですね。残念です」
「それって優しさとは違うよな?」
……たまに見せるこの打算的な性格、なんとかならんのか。
「そういう音水はどうなんだ?」
「ん~。そりゃあ、私だって負けたのは悔しいですよ。だって相手チームの企画を担当したのは雪代さんですし……。でも、だからこそ落ち込んでなんていられません!」
「ふっ……。その意気だ」
そういえば音水と雪代って出会った頃から張り合ってたもんな。
雪代も音水のことは認めてはいるが、はっきりと気に入らないと言っている。
立場も会社も違うが、お互いにライバル視しているのは間違いないだろう。
「あ!」
「どうした?」
「今の流れなら落ち込んでるとウソをついて慰めてもらえるルートがありましたよね!?」
「何を言い出しとるんだ」
「あぁ~、失敗したなぁ。ここで思いっきり甘えて、あわよくばイチャイチャできたのにぃ~」
そこまで思うならわざわざ言わずに黙って甘えて来ればよかったんじゃないか?
俺、そんなに壁を作ってるかな?
「笹宮さん……」
「ん、どうした?」
「実はですね、私……落ち込んでるんです。甘やかしてください」
「さっきいろいろ暴露したのに今さらか」
別に甘やかすくらい構わないのだが、音水が求めているのはラブ的なイチャイチャだからな。
今までにも際どいときはあったが、音水が本気で甘え出したら止まらなくなりそうだし……。
むぅ……、俺の理性にも限界はあるから注意しておこう。
「そういえば、新しい協力者を得ることができたぞ。まだ小学生なんだが、見ただけで人が何にを影響を受けたかがわかるらしい」
「へぇ~、そんな子がいるんですね」
「ああ。チラッと聞いただけだが、なんとなく色が見えるそうだ」
もちろん今話している小学生とは紫亜の事だ。
彼女の影響力を見極める才能がマーケティングに役立つらしい。
本当ならビッグデータとAIを使ってやるようなことを小学生がやってしまうんだ。たいしたもんだよ。
すると音水は「あっ!」と声を上げた。
「たぶんそれ、共感覚ですね」
「共感覚?」
「ほら、よく『夫婦は似る』っていうじゃないですか。科学的には夫婦になっても顔が変わることはないって研究結果が出ているんですよ」
「ほぅ……」
「ということは、人には影響し合ってることを察知する能力があるっていうことなんですけど、その子はそれを色とかで判別できちゃうんでしょうね」
へぇ、なるほどね。
確かに世の中には瞬間記憶力とか絶対音感とかあるもんな。
だったら紫亜のような人が他にもいるかもしれない。
それにしても音水って意外と物知りなんだよな。
真面目だから雑学とかもしっかり勉強しているんだろう。
ある意味、彼女のこういう性格も才能だよな。
……と、ここで音水が不可解なことを訊ねてきた。
「もしかしてですけど、今の流れで、『音水を俺の色に染めてやるぜ』とか言おうとしてます?」
「そんなヤバいセリフを俺が言うと思うか?」
「昔の笹宮さんなら結構言ってましたよ」
「マジで?」
「はい」
えー、俺そんな事言ったか?
確かに昔は映画のセリフを使ったりしていたが……、変なところはなかった……よな?
うん、なかったはず。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、結衣花と紫亜を連れてお出かけ。
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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