海を越えてデレる大学生
「お父様が?」
驚きの声を上げたのは、今海外で住んでいる楓坂だ。
俺達は今パソコンを通じてテレビ電話を行っている。
画面の向こうは昼間らしく、楓坂は料理をしながら俺と話をしていた。
楓坂のエプロン姿も久しぶりだ。
「ああ。突然手紙が届いたんだ。協力者を紹介するって……」
「はぁ……。お父様らしいですね」
「たぶんバスラッピングの件を知ってるんだと思うが、楓坂が教えたのか?」
「まさか。でもお父様はそちらのデパ地下の仕事に関わっていたから、そのせいじゃないでしょうか」
「どういうことだ?」
楓坂は食材を鍋に入れた後、手を洗って画面を正面にして座ったようだ。
キッチンにいるようなので、腰掛け椅子かなにかにすわったのだろう。
「笹宮さんは知っていると思いますが、私のお爺様が経営していたゴルド社はコンサルティング会社です。それで売り上げ改善のために最近までそちらのデパートに派遣されていたんですよ」
そういえば音水と打ち合わせに行った時、デパートの女性従業員さんが最近までコンサルの人が入っていたと言っていたっけ。
どうやらそれが楓坂の親父さんということか。
かなりやり手と聞いているが、どうして俺を助けてくれるんだ?
しかしそれなら俺達の情報を手に入れている理由は頷ける。
「なるほど、そういうことか……。ちなみに楓坂の親父さんってどんな人なんだ?」
「そうですね……。雰囲気としては結衣花さんに似ているかしら」
「結衣花に?」
結衣花に似ているって……もしかしてフラットテンションなのか?
しかも楓坂の父親なら四十代くらいだよな?
それって怖い人ってことなんじゃないのか?
むぅ……、わからん。
全然想像がつかない。
とはいえ、ここで考え込むのは楓坂に悪い。
話題を少し変えよう。
「そういえばバスのラッピング広告だが、あのトリックアートは見事だったよ。結衣花も今はスランプから脱出できたみたいに見える」
すると楓坂は嬉しそうにドヤ顔を決め、自信満々に『わらわを讃えよ』と言わんばかりのポーズをする。
「うふふ。頑張りました。褒めてくださっていいんですよ」
「ああ。楓坂はすごいよ」
とくにジョークを挟むこともなく、俺は素直に感想を言った。
それだけ今回楓坂がデザインしたトリックアートのラッピング広告は見事だったからだ。
それにあれほどのインパクトがなかったら、結衣花の成長に繋がる刺激にならなかっただろう。
さぞ楓坂も満足だろうと思ったが、反応は予想と真逆だった。
「んん……。いつもはここでツッコミを入れるじゃないですか。どうしていきなり素直になるんですか……」
あれ? もしかしていじって欲しかったのか。
まさかそう来るとは……。
っていうか俺のコミュ力に適応力を求められてもだな……。
「ダメだったか?」
「そうじゃないですけど……。んんんんんんん~っ」
駄々をこねるように体を揺すって半泣きになる楓坂。ツッコミを入れてもらえなかったので、恥ずかしかったのだろう。
俺としては楓坂のこういうところも可愛いと思うのだが。
「と、とにかく! 次が本当の対決ですからね。知っているかもしれませんけど、私達は春フェアにも参加します」
「わかってるよ。楓坂達はショッピングモール、俺達はデパ地下だな」
「はい。次も負けるつもりはありませんからね」
◆
翌日。
俺は楓坂の親父さんが紹介してくれた協力者に会うため、デパートの一階にある喫茶店に来ていた。
「さて……、待ち合わせはここなんだが……」
喫茶店の中は大正ロマンに溢れるシックな雰囲気。
昔の喫茶店というのはどこもこんな感じだったのだろうか。
マスターのこだわりのコーヒーとかが美味いんだろうな。
それにしても楓坂の親父さんが紹介するっていうくらいだから、怖い人かもしれない。
劇画タッチみたいな顔だったらどうしよう。
声なんかシブくて、眼帯もしていて、銃とかぶっぱなして……って、それじゃあメタ〇ギアのスネークさんじゃねぇか。
意味不明の妄想を消し去って、俺は指定された席へ向かう。
だが、そこには意外な人物がいた。
「にゅほわ!? お兄ちゃん?」
「え……、紫亜か?」
協力者が座っているはずの場所にいたのは白いベレー帽を被った可愛らしい幼女。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、紫亜は本当に協力者なのか?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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