バスターミナルのライバル?
「こんにちは、お兄さん」
「よぉ、結衣花」
デパ地下の担当者さんからの依頼で、バスのラッピング広告もすることになった結衣花。
そこで今日は実際にそのバスを見るために、駅前のバスターミナルにやってきた。
「悪いな。学校帰りなのに」
「ううん、大丈夫」
駅の入口前はロータリーになっていて、バスが順番に入ってくるようになっている。
今は午後四時ということで人は少ないが、朝の通勤時間はかなりの人になる。
そのためバスが並んで停車する場合も多い。
その時、結衣花はすぐ近くにいた一人の人物を見て声を上げた。
「……あれ? 雪代さんじゃない?」
「ん?」
見てみると、確かにそこにいるのは雪代だ。
小柄ではあるがモデルのような外見は結構目を引く。
横を通りすぎる他の男達は必ずと言っていいほど、彼女の顔を見るくらいだ。
まぁ、あれで彼氏ができないのは性格のせいなんだろうけどな。
俺達の視線に気づいた雪代は『にぃ!』と笑って手を振った。
「よぉ! 笹宮! それに結衣花ちゃんも!」
「雪代こそどうしたんだ、こんなところに」
「いやぁさ。以前本部長をやってた人が急に戻ってきて、バスのラッピング広告の仕事をさせてほしいって言うから案内してたんだ」
「元本部長が?」
雪代は大手広告代理店の部長をしているが、本部長ということはその上か。
しかも元本部長なのに今さら仕事をするなんて変わった状況だな。
俺の疑問に答えるように、雪代は軽い調子で説明をしてくれた。
「十年程前に退社した人なんだけど、すっごい人でさ。本社に出社する時とか、社長がわざわざ出迎えにいったくらいなのよ」
「へぇ、かなりの凄腕みたいだな」
「さっきクライアントとの打ち合わせに同席したけど、女のあたしでもホレるくらいの鮮やかさだったね」
ほぉ、あの雪代がここまで人を認めるとは。
これはよほどの人物なのだろう。
「今の話からすると女性ってことなのか?」
「そうだよ。……もしかして妬いてんのか?」
「なんでだよ」
「笹宮ってあたしに未練タラタラだし」
「俺、そんな態度を取った記憶はないんだけど?」
ったく、女性かどうかを確認しただけなのになんでそんなふうに捉えるんだよ。
相手が男だったら俺がヤキモチを焼くと思ったのか。
だがその会話を聞いていた結衣花は、いつもより感情のない平坦な口調でつぶやく。
「ふぅん。そうなんだ。へぇ~」
「なんだよ」
「ううん。べっつにぃ」
「……」
この反応は妬いてるのか?
それとも本当に興味がないのか?
反応に困る態度は止めてくれよ。
俺のコミュ力はまだこの状況に対応できるほどレベルは高くないんだから。
しかし、今の話からすると結衣花と元本部長が手掛けるバスのラッピング広告がこのバスターミナルで並ぶというわけか。
使う路線によっても違うが、もしかすると朝の通勤時間なら二つの広告が並ぶことになる。
競争になることはないが、作り手としては自分の方がよりいい出来栄えにしたいところだろう。
「あら、二人も来ていたのね」
静かでありながら、力強い女性の声がした。
振り向くと、そこには結衣花の母親、ゆかりさんがいた。
「あの人がうちの元本部長の蒼井ゆかりさん。そう言えば結衣花ちゃんと苗字が……。ん? あれ?」
「ゆかりさんは結衣花の母親だ」
「え!? マジ!?」
まさかの事態にゆかりさんを除く全員が驚く。
いつもフラットテンションの結衣花も、あまり表情に変化はないが驚いていた。
「お母さん、また仕事をするの?」
「ええ。知り合いのアウトレットモールの部長さんに頼まれて今回だけね」
「じゃあ、デザインもお母さんが?」
「いいえ」
ここで言葉を切ったゆかりさんは、俺と結衣花を交互に見た後、強気のほほえみを浮かべる。
「デザインは楓坂さんにお願いするわ」
「え!? 楓坂に!?」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、予想外すぎる展開に笹宮はどう動く!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます