彼女達の気持ち、そして助っ人?


 バスのラッピング広告を手掛けることになった結衣花。

 だが、同じバスターミナルに到着する別のバスの広告をゆかりさんが請け負うことになった。

 そしてそのデザインを楓坂が行うという。


 直接的ではないにしても、これは結衣花と楓坂の対決のような構図だった。


 自宅に帰った俺はすぐにノートパソコンを立ち上げて楓坂とテレビ電話をする。


「驚いたぞ。どういうことなんだ?」

「私もびっくりしているわ。昨日ゆかりさんから急に話を持ち掛けられたの」


 どうやら楓坂も詳しい事情は知らないようだ。

 今回の一件を仕組んだのはやはりゆかりさんということか。

 しかしどうして……。


 いや、それよりも気になることがある。 


「でも楓坂は利き手がうまく動かないから絵を描けないんだろ。どうするんだ?」


 すると楓坂はあきれ気味に息を吐く。


「あのね。デザイン=絵を描くこととは違うのよ。画像を加工してレイアウトするのもデザインだし、立体物を利用するのもデザインに含まれるんですからね」

「そうか。バスのラッピング広告は写真も使えるもんな」

「ええ。それに簡単なイラストならベジエ曲線という機能を使えば描けるわ」


 なるほど。楓坂はペンこそ握れなくなったがパソコンの操作はかなりのものだ。

 なにより知識がある。

 きっと楓坂なら十分すぎるデザインを仕上げるだろう。


「それに私も試してみたいの。陰役ばっかりじゃなく、堂々と自分の力を……」


 その言葉は普段は見せない楓坂の闘志を宿していた。

 楓坂もいろんなことを乗り切って、自分の道を進み始めたという事か。


 俺が納得するのを待っていた楓坂は、ふいに話を切り替えた。


「ゆかりさんは結衣花さんに目標を与えたいのよ」

「目標?」

「結衣花さんは確かにいろいろあったけど、高校生プロデビューを果たしているわ。それってすごく恵まれていることでしょ?」

「……確かに」


 そうだ。きっと結衣花と同学年で同じ体験をしている人は少ないだろう。


「だけど人によってはそこで満足して先に進めなくなってしまう」

「それで楓坂と張り合うように仕向けたってわけか」

「張り合うというより、存在を近くに感じさせたかったんじゃないかしら」


 ゆかりさんは結衣花のスランプを感じ取ったからこそ一人暮らしを勧めた。

 そう考えると楓坂の予想は辻褄があう。


 だが……、


「ゆかりさんの気持ちは理解できるが俺は納得できないな。まだ結衣花は本調子じゃないんだ。もう少しゆっくりさせてもいいんじゃないか?」

「私はゆかりさんに賛同するわ。停滞している時の苦しさがわかるから……」


 正直、楓坂は俺に合わせてくれると思っていたので、予想外の反応に驚いた。


「久しぶりに意見が別れたな」

「ええ、でも私達ってもともと水と油でしょ?」

「俺としては混ざり合ったままでよかったんだが」

「そう? 私はあなたと対立している瞬間もすごくすごく楽しいわ。うふふ」


 女神スマイルで微笑んだ楓坂はかわいらしくしなを作った。

 見た目の癒し系とは裏腹に敵意が満載だ。


 そうだよな。俺達って元々敵同士として会ったんだもんな。

 なんつーか、こういう挑発気味の楓坂をみるのも久しぶりのような気がする。


「おまえのそういうところ、結構好きだぜ」

「私もあなたのことが好きよ。じゃあ、バスのラッピング広告対決を楽しみましょう」


   ◆


 そして翌日。

 昼食で近くの定食屋に入った俺は雪代と話をしていた。


「はぁ? それでケンカしたのか?」

「まぁ、ケンカって言うか話しづらくなったっていうか……」

「ガキか」


 楓坂との話をすると、雪代は呆れたようにそう言い放つ。

 俺はというとムスッとした表情で頬杖をついていた。


「だいたい楓坂はいつも突っ走り過ぎなんだよ」

「あんたさぁ、愚痴るのはいいけどスパッと切り替えないとダサいよ」

「わかってるよ」

「あ、そこの醤油を取って」


 元カノというのは一度恥ずかしい姿を見せていることもあって、再開するとつい話をしてしまう。


「つまり笹宮の本心を説明すると、楓坂ちゃんが自分の道を進みだしたから置いてきぼりを喰らって寂しいわけね」

「……そんなこと言ってないだろ」

「笹宮の愚痴を分析するとそうなるっしょ。あ、そのハンバーグ、一切れ取って」

「俺のなんだけど?」


 とはいっても、ここでやらないとうるさいからな。


 むしゃむしゃとハンバーグを食べた雪代は水をグビグビと飲み、ぷはーっと息を吐く。

 こいつ、もうオッサン化してんだろ。


「ぶっちゃけさ、楓坂ちゃんのスペックを考えたら今までくすぶってたのが不思議なくらいじゃん。あの子にはいい転機じゃね?」

「まぁ、そうだろうな」

「とりあえずあたしは立場上、ゆかりさんに協力しないといけないから。今日も三つくらい企画書を提出してあるよ」


 まぁ、そうなるわな。


「デザインに楓坂、企画は雪代、そして調整役にゆかりさんか。最強すぎるだろ」

「まぁな。ぎゃは!」


 見た目はモデルみたいなのに、この笑い方はなんとかならんのか。

 雪代はとことん残念系美人だな。


「こっちはデザインを結衣花、調整役が俺か。いや企画も俺がしないといけないのか」


 と、ここで雪代はきょとんとした表情をする。


「なに言ってんの。企画なら笹宮んとこにはアトミックウェポンがあるだろ」

「なんのことだ?」

「音水ちゃんだよ。あの子、企画を考えることだけなら頭一つ抜けてんじゃん」

「……そうか。そうだよな!」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、音水の協力を得られるのか!? 嫌な予感が……。


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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