音水と打ち合わせ


 外出前の仕事を済ませた時、突然音水が叫んだ。


「笹宮さん、ハグしてください!」


 さてどうしてくれようか、この後輩は。

 以前は恥じらいを持って接していた音水だが、最近はなにかとオープンだ。

 もちろん俺が彼女に手を出すわけにはいかないので間違いは起きないのだが、いちおう先輩として彼女の事は心配している。


「笹宮さん、ハグです!」

「まぁ、待て。とりあえず理由を聞いていいか?」

「私がハグられたいからです!」

「なるほど、明解な答えだ。だが問題があることを忘れているぞ」

「え? なんですか?」


 キョトンとする音水の背後には、巨大化したブロドックのような我が社の社長、銅乃塚が立っていた。


「きっさまらぁぁ!! いちゃついてないで仕事をせんかぁぁぁぁ!!」

「「はいぃぃぃ!!」」


 社長に怒られた俺達はすぐに机に向かい、それほど残っていない仕事を必死にやり始める。

 やっぱり怖いのは嫌だもんな。


 音水は小声で話しかけてくる。


「……怒られちゃいましたね」

「巻き添えを喰らった俺の身にもなってくれ」


 その直後だった。

 ぶるるるるっ! という鼻息の音が聞こえたので振り向くと、銅乃塚社長がまだ立っていた。


「笹宮ぁ……。わかっておるだろうなぁ……。音水に手を出したら減給では済まさんぞ……」

「は……はい」


 前からそうだが、なんで社長は音水にここまで期待をするんだろうか。

 まぁ、この成長スピードを見ていれば社長の気持ちもわからないわけではない。


 こんなハプニングのおかげで残っていた仕事はサクサクと終わり、俺と音水はデパ地下イベントの打ち合わせに行くことになった。


   ◆


 デパ地下のフロアマネージャーとの打ち合わせを終えた俺達は、遅い昼食を食べようとデパート内の廊下を歩いていた。


「ふぅ……。あの課長さん、話が長いな……」

「二時間ぶっ通しで話をしてましたよね」


 音水とそんな会話をしていた時、後ろからデパートの女性従業員が「大変申し訳ありません」と話しかけてきた。


 やっべ。聞かれてしまった……。


「あの方は最近昇進して、念願のデパ地下を任されたものだから少し浮かれているんです。普段はもう少しだけマシなんですけど」

「少しですか」

「ええ、少しだけです」


 それって焼け石に水じゃね?


「じゃあ、今までは別の人がここを担当していたんですか?」

「はい。二ヶ月ほど前まで海外のコンサルト会社の人が出向という形でデパ地下を管理していたんです。おかげで業績はみるみる上がっていきました」


 へぇ、やり手だな。

 一年前はこのデパ地下は時代の波に乗り遅れていると言われていたが、最近では流行を発信する側だ。

 海外のコンサルねぇ。どんな人なんだろうな。


 女性従業員が去って行ったあと、俺達は再び食堂に向かって歩き始めた。


「笹宮さんみたいな人が他にもいるんですね」

「俺、そこまで活躍してないだろ」

「なに言ってるんですか。笹宮さんは私の中では一番の仕事人ですよ」

「おだてやがって。何も出ないからな」

「そんなこと言って、お昼をご馳走してくれるんですよね」

「ったく、しょうがないやつだな」

「ちょろい笹宮さんも最高です」


 この後輩、先輩のことをちょろいって言いやがったぞ。

 まったくなんて奴だ。これはお仕置きが必要だな。

 だが、昼食はおごってやろう。

 言っておくが、さっきの言葉でデレたわけじゃないんだからな。


 そうだ。最近気になっているあの事を音水にも聞いてみよう。


「話は変わるが、音水は四季岡という人間を知ってるか?」


 四季岡……。

 旺飼さんが俺に私が未来のAIに関するレポートを書いた人物。

 しかし最近知り合った紫亜という女の子の苗字も四季岡だった。

 もしかすると関連があるのかもしれない。


 だがネットで調べても全然ヒットしないんだよな。

 というより、無駄なことにヒットしすぎて調べたいことに辿り着けない。


 木を隠すなら林、まさにネットのためにあるような言葉だ。


「四季岡……ですか?」

「ああ、ちょっと気になるやつがいてな」

「笹宮さんが気にするってことは女性じゃないってことですね。安心しました」

「なぁ、お前ってやっぱり俺の事嫌いだろ」

「めっちゃ好きですよ」


 こいつ、本当にお仕置きしてやろうか……。


「四季岡ってネットで噂になった人達のことじゃないですか?」

「人達? ……一人じゃないのか?」

「はい。チーム四季岡って言われていて、いろんな分野から集まったクリエーターの精鋭達なんです。そして名前を名乗る時は本名じゃなくて『四季岡』って言うそうですよ」


 マジか……。

 じゃあ、旺飼さんがくれた四季岡ファイルはそのグループが作ったものなのか。


 なるほど。

 それなら未来のAIに関するレポートを書くのも頷ける。


 しかし、それなら紫亜も四季岡グループの一員なのか?

 いや、でもあいつどう見ても小学生だぞ……。

 さすがにそれはないよな。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、結衣花に新しいチャンスが!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る