通勤電車で会う小学生


 朝の通勤電車。

 いつものように俺と結衣花は先頭車両の一番前で話をしていた。


 部屋で一緒にいる時はお互い黙ったまま、ぼ~っとテレビやスマホを見ているだけという時も多いのに、こうして電車に乗るとついつい話をしてしまう。

 内容は他愛のないことだが、こんな時間が心地いい。


 ふと、結衣花は唐突な質問をしてきた。


「お兄さんって結局のところ、後輩さんと楓坂さん、どっちを選ぶつもりなの?」

「藪から棒になんちゅう質問をしてくるんだ」

「好奇心と探求心はいくらあっても困らないでしょ?」

「俺が今まさに困ってる」


 相変わらずの恋愛脳だな。

 まぁ、いつもの会話から察すると結衣花は俺と楓坂がくっつけばいいと思っているんだろうな。


 実際、俺達の関係はカレカノと言ってもおかしくない。

 だけど、どうしても先に進めないままだ。


「ここで話すことじゃないだろ」

「どうして?」

「他の人に聞かれたら恥ずかしいじゃないか」

「大丈夫だって。他の人は私達のことをそこまで気にしてないし」


 普段なら俺も同意見だ。

 電車の中で見かける人達がどんな会話をしていようが、まったく気にならない。

 例え聞いたとしても、すぐに忘れてしまう。

 電車の中でのやりとりなんてそんなものさ。


 しかし、今は状況が違う。


 スーツのジャケットの端を握った幼女はクイクイッと引っ張った。


「そうだよ、お兄ちゃん。さっさと話して楽になった方がいいよ」

「紫亜がそばにいることが一番話しにくい理由なんだよ」


 そう。今この場には俺と結衣花以外にもう一人の人物がいる。

 白いベレー帽を被った幼女、四季岡紫亜だ。


「なんでここにいるんだ」

「公共交通機関だから利用しているだけだよ」

「言い回しがいちいち生意気だな」


 まぁ、制服姿であることから紫亜も通学中だということは間違いない。


 しかしどこの学校だろうな。

 白を基調とした制服なのだが、見たことがない。


 すると結衣花はフラットテンションのまま、いじるように話しかけてくる。


「新しいカノジョ候補ができてよかったね」

「楽しそうに言いやがって……。勘弁してくれよ」


 新しいイジリネタができてさぞ嬉しかろう。

 ぐぬぬぬ……。


 続けて結衣花は紫亜に訊ねる。


「紫亜ちゃんはこれから学校かな?」

「うん」

「ひとりで電車に乗れるなんて偉いね」

「むっふーっ!」


 見た感じ十歳前後だと思うが、この年齢で一人で電車に乗れるのは大したものだ。

 俺が一人で電車に乗るようになったのはいつからだろうか。


 中学生の時にはもう一人だったと思うが、小学生の頃なんて自転車しか記憶にない。


 そんなことを考える俺におかまいなく、紫亜は話を続ける。


「ねぇねぇ。お兄ちゃんは誰が好きなの? 教えてよ」

「さあ、どうかな」

「っていうか、結衣花さんがカノジョじゃないの?」

「俺が結衣花をカノジョにしたらいろいろと問題になるんだ」

「なんで? いつも一緒にいるからカノジョじゃないの?」


 やれやれ。こまったな。どうしようか。

 結衣花に助けを求めてみよう。


「こういう場合、どういえばいいんだろうな」

「そうだね……。うーん。できるだけわかりやすく言ってみるね」


 そして結衣花は言う。


「紫亜ちゃん、私達はカレシ・カノジョの関係じゃないの」

「えー。なんでー」

「恋人っていうことは同じ立場ってことでしょ? でも私の方が上でお兄さんが下だから、ちょっと違うと思わない」

「あっ! なるほどー!」


 なんだそれ!

 ツッコミどころ満載じゃないか!!


「おいおい……。なに勝手なことを言ってるんだ」

「わかりやすいかなと思って」

「今の説明おかしいだろ。そもそもなんで俺が下なんだよ」

「私がマスターで、お兄さんがサーバントって感じじゃない?」

「例えがまさかのソシャゲかよ」

「ちなみにお兄さんは星1キャラだね」

「ガチャで出たら舌打ちされる扱いか」


 ったく、隙あらばこれだ。

 しかも二人がかりだから手も足も出ない。


「紫亜は? 紫亜は星いくつ?」

「紫亜ちゃんは星5だね」

「やったー!」


 満面の笑みで喜ぶ紫亜。

 こうしてみるとなかなか可愛い子なんだよな。

 しかし、星5キャラならもう少し威厳を持ってほしいぜ。


 ……と、ここで紫亜は意外なことを言い出す。


「でもさー、マスターとサーバントって恋人みたいなものじゃないの?」

「え……、それは……」


 突然の無垢な言葉に結衣花は慌ててうろたえた。

 あれ? もしかして、こんな展開は初めてじゃないか?


 畳み掛けるように紫亜は話を続ける。


「今のってお兄ちゃんは結衣花さんのものっていう意味だよね? それってやっぱり恋人ってことじゃないの?」

「ち……違うよ。そうじゃなくて……」


 必死に言い訳をしようとする結衣花。

 しかし、それよりも早く電車が次の駅に到着する。


「あ、着いた! じゃあね、ばいばーい!」


 そう言って紫亜はさっさと電車を降りてしまった。


「結衣花が言い包められるなんて始めて見たぜ」

「む~」


 恥ずかしそうにふくれっ面を作った結衣花は俺の腕を二回ムニった。

 結衣花でもこんな一面があるんだな。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、仕事で進展あり!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る