デパ地下へゴー!
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
朝、インターホンが鳴ってドアを開くと結衣花がいる。
朝食を食べた後は一緒に駅へ向かう。
電車も一緒なので自然と会話をすることが多くなった。
これが今の俺の日常だ。
駅の改札口を通ってホームで電車を待っている時だった。
「お兄さんと一緒に通学するなんて不思議な気分」
「それな」
今までずっと感じていたことを結衣花はサラッと話してしまった。
それを言ってしまうと、なんだか俺達の関係が特別なもののように感じてしまうので、あえて言わないようにしていたのに……。
「結衣花に言ってなかったかもしれないが、雪代も近くに住んでるんだ。同じ駅を使ってるからたまに会ったりするぞ」
「雪代さんってお兄さんの元カノさんだよね」
「まぁな。今はどっちかって言うと気軽に話せる旧友って感じだが」
雪代と結衣花は一度だけ会ったことがあるのだが、お互いに相手のことはそれほどしらないはずだ。
とはいえ雪代は結衣花のことをかなり気に入っているらしい。
たまに会うと、いつも結衣花のことを聞いてくる。
雪代は他人の才能を見抜く力がずば抜けていて、結衣花に初めて会った時からクリエーターであることを見抜き、成長する可能性を感じていたそうだ。
気が付くと結衣花はじぃ……っとこっちを見ていた。
「なんだ、その目は……」
「ん~ん。べっつにぃ~」
もしかして雪代のことを考えていたことでヤキモチを焼いたとか? ……まさかな。
「そういえばデパ地下の販促キャンペーンの話なんだが、結衣花に頼むことが正式に決まったぞ」
「そっか。頑張らないとだね」
そう言った結衣花だが、あまり元気があるようには見えなかった。
フラットテンションなので他の人から見ればいつも通りなのだろうが、今の結衣花は少し様子が違う。
「……どうした? 浮かない顔をしているが」
「うん……。お兄さんから事前に話を聞いてラフを何枚か描いてみたんだけど、コレっていうのが思いつかなくて」
クリエーターの人と話をすることは多いが、やはり最初の段階で迷う人が多い。
実際、締め切りを決められてデザインを描くというのは俺が考える以上にプレッシャーがかかるのだろう。
よし、ここは俺が動いてみるか。
「じゃあ、今度の土曜日。一緒にデパ地下へ行ってみるか?」
市場調査のように見えるが、その狙いは結衣花を楽しませることだ。
これでリラックスできるかもしれない。
すると結衣花は目をぱちくりと開いて俺を見た。
「……二人だけで?」
「ああ、そりゃそうだろ。イヤか?」
「ううん。楽しみにしてる」
んんん? さっきの間は何だったんだ?
別に俺達で出かけることなんてめずらしくないのに。
まぁいい。
次の土曜日は存分に結衣花を楽しませてやろう。
◆
そして土曜日。
俺と結衣花は次のクライアント先であるデパートにやってきた。
高級感のある商品を中心に販売しているデパートだが、そのデパ地下も豪華さは圧倒的だ。
しかし活気のあるフロアのおかげで堅っ苦しさはない。
「次の仕事は春に行われるご当地スイーツフェアだ。このデパ地下は女性をターゲットにしているから、結衣花のセンスを活かしやすいと思うぞ」
店内を歩きながら、俺はイベント内容の説明をしていた。
結衣花は話を聞きながら、いつも以上に興味深く店内を見渡している。
「普通に店を回っている時は気づかなかったけど、こんなに多くの人がいて、プロの人達が必死にお店を作り上げてるんだね」
「裏に回るといろいろ愚痴も聞くが、なんだかんだ言ってみんなプライドを持って仕事をしているよな」
「私なんかにできるのかな……」
ぽつりとつぶやいたその一言。
冷静に考えれば、女子高生の彼女がこの状況で怖気づいてしまうのは仕方がないことだ。
「もし不安があるなら、俺が絶対になんとかしてやるよ。怪獣が出てきてもイベントを成功させる自信があるぜ」
「怪獣なんて出ないこと知ってていい加減なことを言ってさー」
「俺なりのジョークだ」
「わ。無愛想顔なのにドヤ顔とか、女子ウケ悪いよ」
「今は結衣花だけにウケればいいからな」
不安を和らげてあげたくて言ったことだが、結衣花から緊張が抜けたのが伝わってくる。よかった。
「やっぱり、お兄さんってお兄さんだよね」
「なんだよ、その言い方」
「ふふふ。ありがとう、お兄さん」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、デパ地下で意外な出会いが!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます