小さな再会
市場調査という名目でデパ地下に遊びに来た俺と結衣花は、のんびりと名物のスイーツを見ていた。
生クリームとフルーツたっぷりのケーキから、マドレーヌのような焼き菓子、そしてチョコや和菓子の数々。
見ているだけで全然飽きない。
「しかしデパ地下のスイーツって豪華だよな。どれも美味そうだ」
「帰りに新作スイーツを買って帰ろうね」
「ったく、しょうがないな」
しかしどうせなら一番人気のものを買いたいところだ。
こういう時は売れ筋ランキングがあると役に立つ。
もちろんランキングが全てじゃないってことはわかってる。
でも俺は流行に敏感じゃないから、どうしても頼ってしまうんだよな。
ふと結衣花はショーケースを眺めながら訊ねてきた。
「でもさ、スイーツのパッケージって色はさまざまだけどシンプルなデザインが多いよね。あんまりキャラとか描いてないし」
「商品によって違うが、手作り感を演出する場合はシンプルな方が好まれる傾向があるな」
「へぇ~、そうなんだ」
「シンプルっていうと簡単に聞こえるが、単純な配置にしてしまうと機械的になってしまうから、手作り感を伝えながら高級感を出すのは案外難しいらしい」
キャライラストはインパクトがあるが、使いどころを間違えると肝心の商品の存在感が消えてしまう。
結衣花が以前デザインしたマグカップなどはキャラを目立たせた方がいいが、スイーツのパッケージの場合はまた違うノウハウが求められる。
今回の仕事は結衣花に新しい経験を与えることができそうだ。
「私がデザインするのは紙袋だけど、やっぱりシンプルでありながら機械的にならないほうがいいよね。できるかな……」
「そこは打ち合わせをしながら決めていくから大丈夫だ。参考資料はたくさんあるから、必要なものは言ってくれ」
「うん、ありがとう」
結衣花と話をしていたちょうどその時だった。
「わふっ!」
俺の脚に小さな女の子がぶつかってきた。
青いリボンのついた白いベレー帽を被っている。
そして聞いたことのある可愛らしい声。
「おっと……、大丈夫か? んん? おまえは……」
「ご、ごめんなさい。って! ああっ! スタッフのおじさん!」
「だれがオジサンだ」
そう、俺はこの子を知っている。
以前、商業施設で行ったバレンタインイベントに来ていた生意気な幼女だ。
すると結衣花が訊ねてくる。
「誰?」
「ああ、この前あったバレンタインイベントの時に結衣花のグッズを買いに来た女の子だ」
「じゃあ、私のお客さんなんだ」
一方、白いベレー帽の幼女は『こっちを見て』と言わんばかりに、ズボンを引っ張る。
「ねぇねぇ。お兄ちゃんは何やってるの? 迷子?」
「どこをどう見ればそう見える」
「人生に迷って、自分を見失ってそうだから」
「俺、どんなふうに見られてるわけ……」
その流れに対して、結衣花はいつもの調子で、
「この女の子、なかなかいい洞察力をしてるね」
「あたかも真実であるかのように言うな」
ったく、どいつもこいつも俺のことを頼りない男扱いしすぎてないか?
俺は腰を下ろして幼女に話をする。
「俺はただの買い物だ。そっちこそどうしてお子様一人でデパ地下に来ているんだ」
「お子様って失礼しちゃうな。私、もう小学五年生だよ」
「お子様だろ。それでどうしたんだ? もしかして迷子なのか?」
「子供を見るとすぐに迷子って決めつけるのは大人の先入観だね。注意するように」
「はいはい。じゃあ、迷子じゃないんだな」
「うん。お父さんを探してるだけ」
「迷子だろ……」
やれやれ。予想はしていたがやっぱりそうか。
なら、迷子センターまで連れてってやろう。しかしこの幼女、変にませてるから俺の言う事を聞いてくれないだろう。
さて、どうしたらいいものか……。
俺が困っていることに気づいた結衣花は、優しい表情で幼女と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「ねぇ、私達がお父さんを見つけるのを手伝ってあげようか?」
「いいの?」
「うん」
すると幼女はにっこりと笑う。
なんだよ。そんなふうに無邪気に笑えるのか。
俺にもそういう感じで接して欲しいぜ。
いじけちゃうぞ。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は蒼井結衣花。結衣花って呼んで欲しいな」
「うん。よろしくね、結衣花お姉ちゃん。私は
……四季岡?
んん? どこかで聞いたことがあるような……。
■――あとがき――■
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次回、紫亜ちゃんといっしょに!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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