2月13日(土曜日)のぞき見するのは?


 旺飼さんが部屋を出て行った後、俺は昼食を食べながら渡されたデータをノートパソコンでチェックしていた。


「しっかし、これは人にみせられないわな……」


 レポートという形はとっているが、はっきり言って新作SF小説の設定を読まされているような内容だ。

 とても現代技術で何とかなる代物じゃない。


 旺飼さんはこのレポートを自由にしていいと言って出て行ったが、こんなもの使い道ないだろ。


 するとすぐ後ろでかわいい女子高生の声がする。


「ふぅん、四季岡さんっていう人が書いてるんだね」

「こら、結衣花。覗くな」

「見えたんだもん」

「見たんだろ」


 振り向くと結衣花が何食わぬ顔で立っていた。

 時間的にサイン会が終わった直後なので戻ってきたというわけか。


「っていうか、いつの間に入ってきたんだ」

「驚かせようと思ってこっそり入ってきた。でもお兄さん、全然気づかないんだもん。仕事中にそういう態度はどうなのかなぁ」

「ったく、こっそり入ってきたのにその言い方よ」


 別にサボってたわけじゃない。


 ちゃんと管理の仕事はしているが、空いた時間でちょっとだけレポートを読んでいただけだ。


 だって気になるじゃん。しかたないじゃん。


「それよりサイン会の方はどうだったんだ?」

「うん、無事に終わったよ。楓坂さんは後片付けをしてる」

「そうか」


 結衣花は俺の隣に座って、横一列に並んでいるモニターを見た。

 モニターにはイベント会場の様子が映し出されているが、目立ったトラブルは起きていない。


「楓坂さん。週末の災いが起きるんじゃないかって心配していたけど、なにもなかったね」


 俺もそのことを心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。


 ここまで順調にイベントが進むのはむしろめずらしい。

 今日の大きな催しは全て終わったので、すでに成功は確約と言っていいだろう。


「旺飼さんが言うには、このレポートが週末の災いの原因だったらしい。これを産業スパイが狙って模倣犯を演じたそうだ」


 すると結衣花は「え?」と驚いた表情で俺を見た。


「それってヤバいんじゃない?」

「いや、旺飼さんが言うにはもう安全だそうだ。そもそも模倣犯はとっくの昔に掴まっているんだからな」


 週末の災いが問題になったのは数年前の話だ。

 楓坂はまた起きるのではと気にしていたが、その後大きな事件は起きていない。

 いまさらビクビクする必要はなかった。


 だが、結衣花は神妙な面持ちで言う。 


「ねぇ……、お兄さん。今の話っておかしくない? だってこの前スクーターが突っ込んできたんでしょ?」

「それはただのイタズラだって警察は言ってたぞ」

「でも警戒はするよね? なのにこのタイミングでお兄さんに重要なレポートを渡して『安全だ』なんて言うなんて矛盾しているよ」


 ……確かにそうだ。

 無人スクーターのイタズラはまだ犯人が捕まっていない。

 それに今思い返せば、あのスクーターは旺飼さんを狙ったんじゃないのか?


 だとしたら……、


「……まさか! 旺飼さんは自分をおとりにして犯人と対決するつもりなのか!」


 俺は慌ててトランシーバーを手にした。


『各スタッフに連絡! 旺飼さんを見かけた人はいるか!?』

『ガガ……ッ。旺飼さんならついさっき、最上階行きのエレベーターに乗るのを見ました』


 レシーバーを置いた俺は館内の地図を机の上に広げた。


 最上階ということは映画館か。

 だが、そんなところにどうして……。


「屋上行きの非常階段があるが、もしかして……」

「人目のつかないところへ犯人をおびき寄せようとしてるんじゃ……」


 結衣花の言葉は俺の考えと一致した。

 真っ青になった俺達は顔を見合わせたちょうどその時、音水が戻ってくる。


「笹宮さん、そろそろ休憩の時間ですが……」

「音水! ちょうどいいところに来てくれた。ここは任せる!」

「えっ!? あ、はい!?」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、犯人と対決!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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