2月3日(水曜日)結衣花と帰り道
夕方、商業施設での打ち合わせを終えた俺は外に出た。
辺りはうっすらと暗くなり始めている。
今日は普段に比べて人が少ない。
そのせいか、街路樹に飾られたイルミネーションがはかなげに見えた。
疲れを抜くように「ふーっ」と息を吐いた時、すぐ近くにいた女子高生が俺の腕を掴んだ。
「お疲れ様、お兄さん」
「ああ、お疲れ。俺のことを待っていたのか」
「うん。一緒に帰ろうと思って」
「そうか。ちょうどよかった。今日は直帰なんだ」
打ち合わせが終わってから十数分は経っている。
長時間というほどではないが、こうして待っていてくれたのは素直に嬉しいものだ。
「バレンタインイベントって、あんなにいろんなグッズが発売されるんだね」
「結構好評なんだぜ。特に中学生から高校生の女子から反響があるんだ」
「そっか」
バレンタインイベントに合わせたオリジナルグッズだが、クリスマスに発売したマグカップが好評で、続けてさまざまな新商品が用意された。
妹の愛菜はスマホケースを欲しがっている。
今回ラインナップされた中で一番人気になっているものだ。
横を見ると結衣花はいつものフラットテンションのまま、すこしだけ唇が緩んでいた。
「イベントの打ち合わせ、今日が最後だね。大変だったけど楽しかった」
「そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」
実際、学校に行きながら仕事をするというのは大変だろう。
帰ってからも宿題や絵の練習をするかもしれない。
とても俺にはまねできないな。
だが、こうして喜んでくれるところを見れるのは嬉しかった。
「これで実績もできたし、また結衣花に仕事を頼むことがあるかもしれない。その時は頼むぜ」
「またお兄さんと一緒に仕事ができるの?」
「結衣花がよければだけどな」
すると結衣花は俺の顔を見て、瞳を輝かせた。
「私にできるなら、またやってみたい」
「そうか。頼りにしてるよ」
今回はいきなり大きな仕事になってしまったが、調整さえすればもっと負担を軽くすることができる。
もし機会があれば結衣花に頼んでみよう。
「ねぇ……。楓坂さんの方は大丈夫?」
「ああ。念のためイベント当日の防犯対策も強化している。安心してくれ」
「そっか。よかった」
イベント当日と言えば、夏目君のことも言っておいた方がいいか。
二人は知り合いだし、現場で突然となると驚くだろう。
「そういえば、夏目君がバイトとして来週の土日に来ることになったぞ」
「そうなの? ……たしかその日、夏目君の所属するCG部は作品の発表会を開くって言ってたような気がするけど」
「夏目君は午後の部だからな。たぶん午前中は発表会の方をするんだろう」
「かなりきつくない? なんでそこまで頑張るのかな?」
「さあな」
夏目君が頑張るのは結衣花へアピールするためなんだろうけど、それを言うのは止めた。
なぜか? うーん、なんでだろう。
嫉妬とかではないが、漠然と面白くなかった。
そんな気持ちを抱いた俺に気づいたのか、結衣花は訊ねてくる。
「もしかして、私と夏目君の関係を心配してる?」
「……多少はな」
「ふふっ。素直はいいね」
ったく、嬉しそうにしやがって。
俺が困るところがそんなに楽しいのか?
「それより今年から高三だろ? 進路とか考えてるのか?」
「うーん。正直悩んでる。美大に行ってデザイナーを目指したいけど、本当に通用するかどうか自信がなくて……」
進路って人生で大きな選択の場面だから、そう考えてしまうのも無理はない。
俺も正直悩んだが、結局なにも決めれず雪代と一緒の大学に行くことにしたんだよな。
だが、結衣花の心配は他にもあったようだ。
「あと一年もしたら、お兄さんと朝会う事はなくなるんだよね」
「……そうだな。寂しいか?」
「お兄さんがかわいそうだなぁっと思って」
「俺の心配かよ」
まぁ、正直に言って俺はさびしい。
もちろん女子高生に恋心を持つようなことはないが、それでも俺はこの時間が気に入っている。
一年前は一人が当たり前だったが、もしまた一人になったらどうなるんだろうか。
「バレンタインが終わったら、なにかしない?」
「なにかって?」
「まだ全然決めてないけど、受験が忙しくなる前になにかしたいなぁって」
「そうだな。でも俺はそういうことを考えるのは苦手だから結衣花に任せるよ」
「私の言いなりになってくれるってこと?」
「奴隷になるとは言ってないんだが?」
バレンタインの後か……。
少し考えておこう。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、いよいよバレンタインイベント開始! 楓坂と音水が激突!!∑(゚ω゚ノ)ノ
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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