2月2日(火曜日)準備


 バレンタインイベントの開催まであとわずかとなり、俺達は最後の追い込みに入っていた。


 今日は現場を担当するメンバー達を会議室に集めてミーティングを行っている。


 今までのことから防犯に力を入れることにした俺は、アドバイザーとして香穂理さんをヘルプに呼んだ。


「それで当日はこちらを注意して、デッドスペースを減らすようにしてください。あとは……」


 香穂理さんの本来の仕事は事務だが、俺達の会社は人手不足ということもあり、こうして現場の仕事を手伝ってもらうことも少なくない。


 しかも彼女が持つプロファイルの知識は、とても役に立っていた。


「さすがプロファイルを勉強していただけあって、セキュリティの知識も相当のものだな」

「はい。自慢の友人です」


 そう答えるのは後輩の音水。

 今回のバレンタインイベントではヘルプとして彼女も現場に入ることになっている。


「そういえば今朝、香穂理が気になることを言ってました」

「どんなことだ?」

「私と笹宮さんがもっと仲良くなれるラッキーアイテムはピンク色のセーターだそうです」

「それさ、プロファイルじゃなくてただの占いだよな」


 そもそもピンクのセーターなんて俺は恥ずかしくて着れないぞ。

 よく朝の占いってあり得ないアイテムを紹介してくるけど、あれってなんでなんだろうな。

 ちなみに今朝の占いランキングで俺の順位は四位だった。


「でもどうしてここまで防犯対策をするんですか?」

「実は最近、この付近で無人のスクーターが突っ込んでくるというイタズラがあったんだ。もしかしたらと思ってな」

「そういうことですか」


 神妙な面持ちで耳を傾ける音水。

 もともと真面目な性格ではあるが、彼女がここまで真剣な表情をするのはめずらしい。


 やはり無人のスクーターというところが奇妙だと思ったのだろうか。


 音水は言う。


「笹宮さんのお尻を狙う悪漢がいるなんて許せませんね」

「それも冗談だよな? そうだよな?」

「いえいえ。笹宮さんってお尻がチャームポイントじゃないですか。絶対に狙われてますって」

「心配するところがおかしいぞ」

「それ以外に何を心配しろっていうんですか?」

「イベントを無事に終わらせることだ」


 まさか音水が俺の尻をそんなふうに見ていたとは。


 すると今度は香穂理さんがやってきた。

 彼女は俺達の会話を聞いていたらしく、音水の肩に手を置いた。


「遙。笹宮さんを困らせちゃダメよ」

「香穂理……」

「笹宮さんはね、自分のお尻より仕事を大切にしているの。言い換えれば仕事のためならお尻を差し出す覚悟もできているという事ね」

「お尻を……捧げる!? じゃあ、私は……!!」

「もちろん、触り放題ね」


 おい、おい、ぅおぉいッ!

 お前ら、俺を差し置いてなに勝手な話をしてんだよ!


 心の中で猛ツッコミを入れる俺をよそに、音水はマジ顔になって言う。


「ちょ……ちょっと! 笹宮さん!! いくらなんでもエッチ過ぎませんか!? でも全然アリです! 私、頑張ります!」

「音水のことは期待してるけど将来が不安だよ」


 こうして防犯に関するミーティングは終了した。

 とりあえずこれで現場の方もなんとかなりそうだ。あとはスタッフの管理くらいか。


 そう言えば今日の夕方、新しいスタッフを集めて研修会を開くんだった。


 とはいっても一時間程度の簡単なものだ。

 特に労力は掛からないだろう。


   ◆


 そして夕方。

 初めて働くイベントスタッフが研修ルームに集まっている。


 その中の一人が元気よく挨拶をした。


「今回、バレンタインイベントのスタッフに応募した夏目です! 二月十三、十四日の土日に入ることになります! よろしくお願いします!」


 爽やかな笑顔でそう言ったのは、結衣花に二回告ってフラれた男子高校生の夏目君だ。


 顔が引きつりそうになるのを我慢して、俺は彼に近づいた。


「こら」

「な……、なんで第一声で怒ってるんですか」

「怒ってるんじゃなくて呆れてるんだ。なにやってんだよ」

「言ったはずです。どんな手を使ってでも結衣花さんを振り向かせてみせるって!」

「その心は?」

「今まで結衣花さんが僕を見てくれなかったのは、きっと活躍している姿を知らないからだと思うんですよ。だからカッコいいところを見せようと思ったわけです」


 夏目君はどうも真面目の方向性がズレているんだよな。

 こうして堂々と正面突破を仕掛けてくるところは大したものだと思うが、不安でならない。


 ……と、そこへ音水が資料の束を持ってやってきた。


「笹宮さん。スタッフに配布する資料を持ってきました」

「ああ、ありがとう」


 テキパキをスタッフ達に資料を渡した音水は、すぐに研修ルームから出て行く。

 また別の研修機材を取りに行ったのだろう。


 すると音水を見た夏目君が「おっふぁわわぁぁぁ……」と声にならない音をもらして震えていた。


「どうした、夏目」

「い……今の人、めっちゃ可愛いじゃないですか。社会人なのにみずみずしさがあって、しかも胸も大きくて……、そのうえ胸が大きくて。僕もこの会社に入りたいなぁ」

「なぁ、本当にお前って結衣花のことが好きなのか?」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、夏目君の予想外の登場! これからどうなる!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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