1月29日(金曜日)結衣花さん、事件です!
翌日の朝。
俺は通勤電車に乗りながら、昨日の出来事を考えていた。
駐車場で旺飼さんと話をしていた時、無人のスクーターが近くのポールに衝突した。
ケガ人は誰もいなかったので警察はただのイタズラと言っていたが、妙な話だ。
もし俺が狙いだとすると、次のバレンタインイベントでなにかトラブルが起きるかもしれない。
どうしたらいいものか……。
その時、いつもの女子高生がやってきた。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
正直なところ、結衣花に話をして頭を整理したい。
だが今回は事件だ。もし話してしまうと心配を掛けてしまうかもしれない。
この事は俺だけの胸に収めて、無難な話をすることにしよう。
「いい天気だな」
「うん。快晴って感じだね」
なんて平和的なトーク。
結衣花に心配をかける要素はゼロと言っていいだろう。
だが、彼女は言う。
「で、話したいことがあるんでしょ?」
「なぜわかった?」
「お兄さんって話したいことがある時、哀愁が漂ってるから」
「男の背中で語っちまったか」
「哀愁ってそんなにカッコいい物じゃないけどね」
結衣花はまるで慰めるように俺の腕をムニった。
そこまで俺はかわいそうな生物ではないのだが……。
「しかし、今回はとんでもない話だからなぁ……。話していいのかどうか……」
「あっそ。じゃあ、聞かない」
「ところで結衣花。雑談なんだが」
「うん、いいよ。お兄さんの手の平返しは予測済みだから」
ふっ……、甘いな。
結衣花がそうこういいながらも話を聞いてくれることだって予測済みなんだぜ。
どうやら今日の駆け引きは五分五分と言ったところか。
若干俺が負けているようにも見えるが、きっと気のせいだろう。
とりあえず俺は昨日起きた出来事を話した。
さすがの結衣花も無人のスクーターが突っ込んできたことは驚いたようだ。
「……それで、お兄さんは大丈夫だったの?」
「ああ、スクーターは駐車場の入口にあるポールにぶつかって大破したからな。俺も旺飼さんも傷ひとつない」
「そっか。よかった」
フラットテンションの結衣花だが、本当に安心している様子が伝わってくる。
へぇ、俺のことでこんなに心配してくれるのか。
結構いいところあるじゃん。
「でも変な出来事だね」
「ああ。あとでわかったことだが、スクーターはアクセル部分にコインを挟んで固定していたらしい。それで無人でも走ってきたというわけだ」
「犯人は?」
「そっちはさっぱり」
今回の事件で奇妙なのが、犯人がまったくわからないということだ。
もし俺を狙っての事だとすると、犯人は顔見知りの可能性が高い。
近くにいた人物と言えば旺飼さんだが、もちろん除外。
音水と離れた直後ではあるが、彼女がそんなことをするはずがない。
もう一人、結衣花に告白をしてフラれた男子高校生・夏目君も近くにいたはずだ。
だが、話をした印象ではそんなことをする奴には見えなかった。
結衣花は訊ねてくる。
「それって『週末の災い』と関係あるのかな?」
「やっぱりそう思うか」
「うん……。あ、でも違うかも。だって週末の災いは土曜日にしか起きないし」
楓坂が巻き込まれたという都市伝説『週末の災い』の可能性も考えたが、発生条件が異なっている。
模倣犯のしわざと考えても、不自然だ。
「楓坂さんにはこの話をしているの?」
「いや。心配かけさせたくなくて黙ってる」
すると結衣花は困った表情で答えた。
「う~ん。言った方がいいと思うよ」
「そうなのか?」
「うん。こういうことをちゃんと話しておかないと、あとで不信感に繋がっちゃうかもだし」
言わないのはもちろん楓坂のことを思ってのことだ。
だがもし俺が楓坂の立場だったらどうだろう。
仲のいい人間が抱えている悩みを打ち明けてくれないのはさびしいかもしれない。
もしそんなことが続いたら、信じられないという気持ちが芽生えてしまうか。
しかし……、
「でも俺さ……楓坂が心配そうにする時の表情が苦手なんだよ。どうしていいのかわからなくなるっていうか……」
「そこはさ。サクッと言ってサッと別の話題に行っちゃうんだよ。大したことがないっていうアピールにもなるし」
もし一昔前の俺ならとても実行不可能なテクニックだ。
だが今は違う。
数々の修羅場を潜り抜け、俺は圧倒的なコミュ力を手に入れているはずだ。きっとそうだ。
今の俺ならできるだろう!
「ほぉ……。蝶のように舞い、蜂のように刺すわけか。今の俺にふさわしい方法だ」
「お兄さんはまだサナギだけどね」
「芋虫と言われなかっただけ、良しとしよう」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、楓坂に話をしようとする笹宮。……大丈夫?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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