1月28日(木曜日)夏目の宣戦布告


 午後四時すぎ。

 音水と別れたあと、商業施設の近くにある駐車場で意外な人物と再会した。


 それは先日の茨城県旅行で会った夏目という男子高校生だった。

 彼は結衣花に告白をしたことがある。


 爽やかなな風貌に優しい目つき。だが明らかに俺に対して敵意を表していた。


「……夏目君か。偶然だな。ここで何をしているんだ?」

「バレンタインの頃に、この近くにある区民センターで作品の発表会をするんです。今日はその下見です」

「そうだったのか」


 そういえば茨城県に旅行へ行った時、楓坂もそんなことを言っていたな。


 今までの話から察するに彼は茨城県の学生なのだろう。

 となるとここには顧問と一緒に来ていて、俺を見かけたので追いかけてきたというわけか。


「部活で来ているなら単独行動は問題じゃないか?」

「すぐに戻ります。それより笹宮さんのこと、知ってますよ。以前バレンタインイベントのプレゼン対決で動画に出ていた人ですよね」

「まぁな」


 十二月に行われたプレゼン対決はかなりの反響があったからな。

 アニメやゲームのコラボがプレゼン内容に含まれたこともあり、学生の視聴者も多かったと聞いている。


「それで俺になにか用か?」


 そう訊ねると、夏目君は口ごもりながらも俺を睨むような表情で叫んだ。


「結衣花さんとは……、ど……どういう関係なんですか!」

「……はぁ?」

「だから! 結衣花さんと恋仲なのかどうかって聞いてるんです!」


 ……こいつ、なにを言ってるんだ?

 俺と結衣花が? 俺が社会人だということを知らないのか?


「あのなぁ、いくら俺が若く見えると言っても話が飛躍しすぎだろ」

「いえ、そこまで若く見えません。もう三十のオジサンですよね?」

「二十七だ。オジサンと言うな」


 ひねくれている奴もどうかと思うが、正直者すぎるのもどうかと思う。


「夏目君も社会人と女子高生が付き合えないことくらいはわかってるだろ。なんでそんなことを聞くんだ?」

「それは……、あなたといる時の結衣花さんが今まで見せたことがないくらい自然だったから……」


 結衣花が? あいつ、いつもフラットテンションだろ。

 それとも普段は違うのか?


 いや、夏目君は部活動で年に数回程度しか会わないはず。

 きっと普段の結衣花を知らないのだろう。


 夏目君はさらに話を進めた。


「結衣花さんに好きな人がいるのは知ってたけど、それがあなたみたいなオッサンなんて納得できない!」

「オッサンって言うな」

「オジサンもオッサンもダメならなんて言えばいいんですか!」

「普通に名前で呼べよ」


 困ったな。結衣花との関係を疑って敵意をむき出しにしている。

 信じてくれるかどうかわからないが、言うだけ言ってみるか。


「結衣花の気持ちはともかく、俺達が恋仲になれないのはどうしようもない事実だ。わかるだろ?」


 すると夏目君は『ギッ!』と俺を睨んで叫んだ。


「その気がないなら話をするなよ! あんたがいるせいで僕達は付き合えないんだ!」

「……恋仲じゃなければ話をするなって極端すぎるだろ」

「僕は真剣なんだ!」


 真剣……か。

 確かに高校生の間に俺が関わっているのは不自然だ。

 夏目君からすれば俺が邪魔でしかたがないのだろう。


「ちなみに夏目君は結衣花のどんなところが好きなんだ?」

「おっぱ……、きょにゅ……。いえ、違います! から……でもなく、全てです!!」

「お前さ。散々言っておいて好きになった理由が不純すぎないか?」


 さっきまで真面目な優等生キャラだったのに、急にガキっぽく見えるようになった。

 まぁ、わからなくはない。結衣花って胸が大きいもんな。


「とにかく、僕は真剣に結衣花さんのことを想ってる!」

「さっき、なにを言いかけたのか忘れたのか……」


 ダメだ。もう何を言われても夏目君のことを真面目キャラと見ることができない。


「彼女は渡しません。僕の方が結衣花さんにふさわしいことを証明してみせます。どんな手を使っても……」


 夏目君はそう言い残すと駐車場から去って行った。

 この場面だけを見れば、恋敵に宣戦布告をするカッコいいシーンなんだけど……。


 どんな手を使ってもねぇ……。

 この状況で何をするって言うんだ。


 ……と、すぐ近くで男性の笑い声が聞こえる。


「はっはっは。ずいぶん苦労をしているようだね。笹宮君」

「……旺飼さん。いたんですか」

「僕も商業施設に用事があってね」


 ザニー社の専務で楓坂の叔父、旺飼さん。

 スマートな物腰だがこう見えてなかなかしたたかな人物だ。


 まさかさっきのやり取りを聞かれていたとは……。


「さすがの笹宮君も恋の駆け引きは苦手かい?」

「勘弁してくださいよ。ただでさえ女子高生と社会人の関係に厳しい時代なんですから」


 ――その時だった。

 俺達がいる駐車場の入口に、無人のスクーターが突っ込んできた。


「なっ!?」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、まさかの事故!? 一体なにが!!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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