1月23日(土曜日)ぎゅっ!
笠間稲荷神社のある町。
風情があって眺めているだけでも観光している気分になれる場所だ。
ぼんやりとしていた時、母校のCG部に挨拶へ行っていた楓坂が戻ってきた。
「お待たせしました」
「もういいのか?」
「はい」
「さっきまで結衣花もいたんだけどな」
「しかたありませんね。つい話し込んでしまいましたし……」
そういって楓坂は苦笑いをした。
彼女が結衣花と話すことより他を優先するのはめずらしい。
よっぽどなつかしかったに違いない。
あまり昔のことにこだわるタイプじゃないと思っていたので、意外な発見だな。
「CG部って楓坂が立ち上げたんだよな」
「はい。でも今の二年三年生グループはほとんど立ち上げメンバーですよ」
「そうなのか」
「不思議な気分です。自分の立ち上げた部活ってなんだか自分の子供みたいで、こうして活動をしているのを見ると嬉しくなるんですよ」
楓坂は優しい表情で静かに語った。
部活の立ち上げなんてしたことがないから、全然イメージがわかないな。
だが楓坂を見る限り、やはり大切な存在のようだ。
もしかすると楓坂って本当は母親向きの性格なのかもしれない。
面倒見がいいは間違いないしな。
なんだかんだで、俺のことも気を使ってくれているし。
「よかったな」
「はい」
自然に笑う楓坂って幼く見える。可愛いところがあるじゃないか。
それから俺達は近くのそば屋に入って食事をすることにした。
実は俺はかなりのそば好きだ。
他府県に来た時は必ず一度は食べるようにしている。
そばの面白いところは、香りが地域によって全然違うことだろう。
といいつつ、製法とか全然知らないんだけどな。
「それにしてもCG部って合宿をするもんなんだな」
「部員のモチベーション維持が目的ですけどね。それにこうして他校と交流をすることで、新しい刺激を得られますし」
「ふぅん」
刺激ねぇ……。女子高と共学の学校が合宿をすれば、そりゃあ告白を考える男子生徒も出てくるだろうな。
結衣花に告白をした夏目という男子もまだ諦めてないようだったし……。
いいやつっぽいし、俺が心配する必要はなさそうだが……。まぁ、あんまし面白くない。
とはいえ、高校生の輪の中に俺が入れるわけもないんだが。
こういう時、やっぱり年齢が違うんだなと実感する。
はぁ……、あと数年で三十かぁ……。
現実なんて受け入れたくねぇ……。
ここで楓坂は思い出したように話を切り出した。
「さっき話を聞いたのですが、聖女学院と合同で合宿をしている学校もバレンタインに商業施設付近で発表会をするそうですね」
「へぇ、そうなのか」
ということは夏目君とまた会うかもしれないのか。
まぁ、さっきはお互いに顔を見た程度で、ちゃんと挨拶をしたわけじゃないが……。
そばを食い終わった俺達は店を出て、駐車場のある方へ歩き出した。
「もう少しゆっくりしたい気分だが、そろそろ出発するか」
「はい」
まだ時間に余裕はあるが、俺はこの地域のことをよく知らない。
たぶん迷う事はないと思うが、余裕を持って行動しよう。
ぎゅっ……。
突然、楓坂が腕を組んできた。
自然を装っているが、彼女の表情は緊張でこわばっている。
チラリとこちらを見たがすぐに視線をそらし、代わりに組んでいる腕に力を入れた。
「……急に腕を組むから驚いたぞ」
「うふふ。いいじゃないですか。今年は寒いのでちょうどいいんですよ」
「またのぼせて倒れたりするなよ」
「んむっ! 腕を組むくらいでそんなことになりませんよ」
その割に顔は赤いけどな。
「……やけに嬉しそうだな」
「はい。久しぶりにCG部の人達に会えて、気持ちが和らいでいるのかもしれません」
「やっぱり高校時代に戻りたいって考える時ってあるのか?」
「……なくはないですけど、私は今の方が好きですね」
信号機が赤になり、俺達は横断歩道の前で立ち止まった。
笠間稲荷神社から少し離れたということもあり、人が少ない。
それでも楓坂は他に聞こえないように、ささやくような小声で話を続けた。
「今は……笹宮さんがいてくれますし」
「めっちゃ恥ずいんだが……」
「キスしてもいいですよ」
「あのなぁ、ここでできるわけないだろ……」
「本気で困ってる。うふふ、面白い」
外出中にからかわれると、普段以上にむずがゆい。
ただでさえ耐性が低めなんだから、手加減して欲しいぜ……。
「笹宮さん……」
「なんだ?」
「すーきっ」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、旅館に到着!
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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