1月6日(水曜日)結衣花と帰りの電車で


 一月六日。

 この日は商業施設のバレンタインイベントの打ち合わせが行われた。


 関係者・協力会社・業者など多くの人達が集まる。

 俺はブロンズ企画社・ザニー社合同特別チームのリーダーとして参加することになり、イラストを担当する結衣花もいた。


 会議が終わり、俺と結衣花は帰りの電車の中で話をしている。

 結衣花は慣れないことに緊張していたせいか、ぐったりとしていた。


「……疲れた」

「ふっ……。ずっと俺から離れなかったもんな」

「仕方ないじゃん。あれだけの人がいたら誰でも緊張するよ」


 普段は生意気な女子高生だが、意外と人見知りする性格だ。

 ただ誰にでもというわけではなく、俺の時のように普通に話をする場合もある。


 同じ人間なのに、状況によって別人のような反応をみせるのが彼女の特徴かもしれない。


「でも会議って言う割に、あんまり仕事の話はしなかったね」

「今日は年明けの挨拶を兼ねた顔合わせなんだ」

「そっか。それであんなに名刺交換を求められたんだね」


 すると結衣花は俺の腕を掴んで二回ムニった。

 疲れているからなのか、いつもより寄りかかるようにしている。


「でも不思議な気分。一ヶ月後のバレンタインイベントで私のイラストが使われるなんて……」

「今日は来てないが、バレンタインイベントは楓坂も参加するからもっとリラックスして進めると思うぜ」

「うん。二人がいてくれると心強いよ」


 ちなみに特別チームの社内ベンチャー化の話があったが、実績がないため保留という事になった。代わりに特別チームの継続が認められ、俺は引き続きリーダーを務めることになる。


 まだお正月ムードが漂う電車の中吊り広告を、結衣花はぼんやりと眺めた。 


「バレンタインかぁ……。恋人たちの季節って感じだね」

「恋人って言えば……。あの問題があったな……」

「どうしたの?」

「あー、実はな。とある先輩と女子社員がデートをするんだが、なぜか俺がサポートすることになった」


 とある先輩とは紺野さんのことで、女子社員とは結衣花の姉・香穂理さんのことだ。

 デートはプライベートなことだからな。

 たとえ結衣花であっても、個人名は伏せて話した方がいいだろう。


 結衣花は言う。


「それって紺野お兄ちゃんとお姉ちゃんの話?」


 一秒もかからず看破された。


「……相変わらず、洞察力がハンパねぇな」

「ここ数日間の話題を考えればそれしかないし」


 俺達、それ以外のことを話している時の方が多いと思うんだが……。

 まるで頭脳は大人の名探偵だぜ。


「っていうか、香穂理さんって何者なんだ? プロファイルを勉強してたとか言ってたぜ」

「お姉ちゃん、FBIに入るのが夢で海外留学までしてたの」

「マジ? すげえ秀才じゃねぇか」

「でもアニメは日本で見たいとか言って帰ってきたんだよね」

「なんなんだ……、あの人は……」

「たぶん紺野お兄ちゃんと会いたいための方便だと思うけど、さすがの私も驚いたね」


 わざわざ海外留学して、アニメを見るために日本企業に就職なんて聞いたことないぞ。

 いや……、あの人ならあり得る。


 まあ、ここまで話したんだ。もうすこしデートのことも話しておこう。変な誤解をされると、後々厄介だ。


「いちおう言っておくと、デートと言っても昼食を一緒に食うだけで、俺達は少し離れた場所で見守るだけなんだ」


 すると結衣花はピクンと顔を上げて俺を見た。


「俺達?」

「ああ。デートをサポートするのは俺と音水だ」

「後輩さんと?」


 急激に結衣花の瞳が好奇心で輝き始める。

 眩しいぜ。


「それっていつやるの?」

「明日だ。大人がなにやってんだよって話だよな……」

「……私も見てみたい」

「……え?」


 きっと結衣花なら「バカじゃないの?」って言うと思っていたのに、まさか見たいと言い始めるとは全く想像してなかった。

 今までこういうことは一歩引いてアドバイスをする程度だったのに……。


「明日ならギリで冬休みだし、外食なら私も合流できるでしょ? サポートするなら二人のことを知っている私がいると役に立つんじゃない?」

「それはそうだが……、なんでだ?」

「私、まだ後輩さんとあんまり話したことないんだよね。どんな人か気になるし」


 そういえば俺と結衣花が話をし始めるようになったのは、音水とのLINEについてからだもんな。

 さすがに最近は俺と音水の仲をくっつけようとしなくはなったが、今も興味は薄れていないというわけか。


「いちおう音水に確認してみるよ。たぶんこの時間なら帰り道だろう」

「お願い」


 さっそくスマホを取り出した俺は音水にLINEをした。

 ほどなく音水から返信がある。


『そうなんですか! 私も結衣花ちゃんに会いたいです!!』


 音水にとっても結衣花は特別な存在だ。

 なにしろ自分が企画したハロウィンコンテストで生まれたアーティストだからな。


「いいってさ」

「よかった。楽しみだね」


 まぁ、飯を食うだけだ。

 トラブルなんて起きるはずがない。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


笹宮さん、なんでフラグ立てちゃうかなぁ……。

次回、笹宮さんの運命は!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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