1月5日(火曜日)香穂理の相談


 夕方、俺は音水に呼び出されて近くの喫茶店に向かった。

 なんでも相談があるという。

 店内に入ると、そこには我が社の受付、蒼井香穂理あおいかほりさんがいる。


「すみません。時間を作ってもらって……」

「いや、いいよ。で、香穂理さんの相談って?」


 今までほとんど話したことがないから、キャラが掴めないんだよな。

 でも結衣花から聞いた話から予測すると、きっと紺野さんとの仲で悩んでいるんだろう。


 甘酸っぱくていいんじゃねぇの。


 香穂理さんは恥ずかしそうにモジモジしながら言う。


「実は……私、修一が……。えっと……紺野主任のことを……好きでいてあげているんですが……。あのアホ、全然振り向いてくれなくて……」

「乙女チックに言いながら、セリフは見下してんのな」


 甘酸っぱいっていうか、強酸性だった……。


 彼女の隣に座っていた音水が見かねてフォローに入る。


「笹宮さんなら紺野主任と仲がいいですし、なにかいい方法をアドバイスしてもらえると思って」

「あのな、音水……。いちおう聞くが、俺がその質問に答えられると思ったか?」

「いえ、全然。まったくさっぱりです」

「最近の音水って遠慮がないよな」


 音水のやつ、即答で答えやがったぜ。

 いや、否定されるとは思ってたけど、もうちょっと考えてくれてもいいんじゃないか。


「でも笹宮さんに相談したのは、ちゃんと考えてのことですよ」

「ほぅ。聞かせてもらおう」

「こうやって恋バナをすることによって、こちら側の陣営を強化できるじゃないですか。戦いは質より数というのは基本です」

「お前の頭の中って、恋愛と戦国時代がごっちゃになっとらんか?」

「軍師って言われてます」

「誰に」

「ごめんなさい。誰にも言われたことありません」


 前から思っていたが、音水って日常で戦略を考えるところがある。

 以前も外堀を埋めるとかなんとか言っていたし……。

 かわいがっている後輩ではあるが、将来が心配だ……。


 今度は香穂理さんが、静かに話を進めた。


「もちろん協力してくれたら見返りは用意します」

「……別に見返りなんていい。そもそも力になれるかどうかすらわからないんだ」

「そういわずに。ちなみに見返りは、笹宮さんと遙の恋をバックアップします」

「……もうツッコミが追いつかんわ」


 遥とは音水のことなのだが、自分のことができないのに、どうして他人の恋をバックアップしようと思ったんだ……。

 それ以前に、いつのまにか俺と音水が恋仲のような話になっている。


「実は私、海外でプロファイルを学んできたの」

「プロファイルって心理学で犯罪者の行動を予想するアレか」

「ええ……。だから安心してください」


 ……プロファイルか。

 俺も心理学には興味があるから、香穂理さんがどんなことを言うのか聞いてみたい。

 きっと俺の行動をピタリと当ててくるんだろうぜ。


「いくつかの情報から推測すると、笹宮さんは遙のことが好きすぎてこっそり写真を撮ったりしているんですよね? 違うかしら?」

「違うな」

「すでに婚約指輪も買って、二人で住む新居も用意済み。違うかしら?」

「違うな」

「そして今年の抱負は遙と結婚。そのためにまず駅前にあるお城のようなラブホに連れ込むことを計画している。違うかしら?」

「全然違うわ」


 確定した。この人、ポンコツだ。

 だが、音水の反応は俺とは違った。


「香穂理……、すごい!」

「だから全然当たってないって言ってるだろ」


 今まで全然気づいていなかったが、音水と香穂理さんのコンビって最凶じゃないか。

 向かうところ敵なしっていうか、敵になりたくない……。


 だがこのままだと埒が明かない。

 無理やりにでも話を進めよう。


「言いたいことは山ほどあるが……」

「ためすぎはよくないわね」

「話、進めていいか?」

「ええ、よしなに」


 呼吸を整えて、俺は冷静に質問する。

 無駄なことを聞いたら絶対に脱線するだろう。

 質問の言葉は慎重に選ばないとな……って、なんでこんなことに集中力を使ってんだ?


「香穂理さんは紺野さんと付き合いたいんだろ? だったら普通に告白すればいいじゃないか」

「いやよ。先に告白したら主導権を握られるじゃない。先手をあえて打たせて、こちらの有利な陣形に持ち込むのが理想なの」

「……なんか、恋愛の話をしてるのか戦国時代の話をしているかわからんようになってきた」


 頭を抱えた俺は冷めかけたコーヒーを飲み、大きくため息をつく。

 もう考える力が残ってない……。


「じゃあ……とりあえず、デートをすればいいんじゃね?」

「笹宮さん、投げやりになってません?」


 音水のツッコミが入ったが、反応する力はもう俺にはない。

 誰だってそうなる。俺だってそうなる。


 ……と、ここでようやく香穂理さんが前向きな発言をした。


「わかりました。では二人もこっそり後からついて来て見守ってください」


 ……え? もしかして、俺と音水で?



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、尾行デートをすることになった笹宮。それに対して結衣花は?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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