1月7日(木曜日)結衣花と音水の再会


 木曜日の正午。

 今日は香穂理さんと紺野さんを見守る日だ。


 デートと言っていたが、やることはファミレスで昼食を食べるだけ。

 だが、あの二人にはこのくらいからスタートするのがいいかもしれない。


 会社の近くにある噴水で音水と待っていると、結衣花がやってきた。

 今日も白いダッフルコートを着ている。

 結衣花って白系の服が好きなんだな。


 そんな彼女に音水が話しかける。


「結衣花ちゃん、こんにちはー!」

「ぁ……はい。こんにちは……です」


 やっぱり結衣花の人見知りする性格は以前のままだ。

 ハキハキと喋る音水に対して、結衣花は怯えるように挨拶をする。


 今も俺の傍から離れようとしない。

 本当は腕を掴みたいのだろうが、音水が見ているため我慢しているようだ。

 手を軽く握ってモジモジとしている。


 結衣花のことだろうから、きっかけさえあれば普通に話せるようになるんだろうが……。


 音水はそんな女子高生の姿を見て優しく微笑み、俺に小声で話し掛けてきた。


「結衣花ちゃんって初々しくて可愛いですね。私にもあったなぁ~、そういう時期……。うんうん」

「本当にあったのか?」

「もちろんですよ。今度笹宮さんにも見せてあげますね」


 そもそも初々しさというものは見せるものではないと思うのだが……。


 本人は自覚していないようだが、音水も入社当時は初々しかったものだ。そのせいでよく失敗していたが、今となってはいい思い出になっている。


 俺から離れた音水は時計を見た。


「じゃあ、そろそろ香穂理たちがファミレスに入った頃なので座ってる場所を確認してきますね」

「ああ、頼む」


 体の方向を変えた音水は、そのままファミレスの方へ歩いていく。結衣花に会えたことが嬉しいのか、足取りが軽やかだ。


 すると結衣花が俺の腕を掴む。


「後輩さんって元気いいよね。リア充って感じ」

「まぁな。嫌味もないし、いいやつだと思うよ。男性社員の何人かは今も音水のことを狙ってるくらいだからな」


 仕事の調子もよくなってきたこともあり、音水は今まで以上にイキイキしている。

 本来の性格とも合わさって、彼女の魅力はより一層輝くようになっていた。


「お兄さんも後輩さんみたいな人がタイプなの?」

「俺、タイプとかそういうの考えないからな。自分でもよくわからん」

「でも、元カノの雪代さんもぐいぐいくる人だったじゃない? やっぱりそういう人が好きなのかなと思って」


 雪代か……。傍から見れば確かにアイツはグイグイ来るように見えるかもしれない。

 だが、本当は気弱だから音水と似ているようで真逆の性格だと俺は思っている。


「あー……。雪代は特別だ。性格なんて考えてなかった」

「体が目当てってこと?」

「なんでやねん」

「なんで関西弁やねん」


 ほぅ……。結衣花は関西弁にも対応できるのか。

 やるじゃないか。


「うまく言えないが、付き合う時って理由なしの時があるんだよ」


 可愛いからとか、優しいからとかそんなのは後付けで、気が付くと付き合っていたという事が大人にはある。

 だがこれは人生経験を重ねた俺だからこそ言える事であって、女子高生には少々難しいかもしれん。


 そして、結衣花は淡々と言う。


「それって流されてってこと? 浮気係数オーバー300。対象を完全排除します」

「デストロイモードしてんじゃねーぞ」

「お兄さんも結構アニメ見てるね」

「愛菜の兄貴してるんだぜ。このくらいは余裕さ」

「自慢気に言われても、えーって感じだけどね」


 ちまみに〇〇指数というネタは、その行動を犯す可能性の高さを示す数値のことだ。

 よって俺は浮気をしたことはないと断言させて頂く。


「とにかく、不純とかじゃくて……、あれだ。この話は終わりだ」

「恥ずかしくなった?」

「まぁな。だから終わりだ」

「しかたないなぁ。許してあげる」


 年が明けても安定の上から目線か。

 まぁ、これが結衣花の自然体だからな。

 人見知りしているところも少し可愛いと思うが、俺の前では生意気くらいでちょうどいいだろう。


 ……と、ここで音水が戻ってきた。


「笹宮さん、結衣花ちゃん。席を確保しました」

「ああ、今行くよ」


   ◆


 今、俺達はファミレスにいるのだが、とりあえず状況を説明しよう。


 先輩の紺野さんと香穂理さんがテーブルを挟んで向き合うように座っている。

 そして紺野さんの隣に俺と結衣花が座り、香穂理さんの隣には音水が座っている。


 普通デートを見守るのって、隠れてするんじゃねえの?

 こんなに堂々と同じ席に座るもんなの?


 たまらず音水に小声で訊ねた。


「えーっと、音水……。俺達って二人のデートを見守るんじゃなかったか?」

「実はこっそり確認するつもりが一瞬で紺野主任にバレてしまって、みんなで一緒にご飯を食べることに……。あはは……」

 

 音水は苦笑いをしながら頬をかいた。

 確かにこの席は入口からすぐのところにある。

 座っている場所を確認しようと入ってしまうと、即バレしてしまうのかもしれない。


「で……でもですね、笹宮さん。聞いてください。距離は近いですけど見守るということはできてますし、結果オーライじゃないですか?」

「ポジティブってすげー」


 そして結衣花がこっそり訊ねてくる。


「……もしかして後輩さんって、おっちょこちょい?」

「……よくぞ見抜いた」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、結衣花と香穂理を見て、笹宮はあることに気づく。


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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