1月3日(日曜日)愛菜のおねだり


 今俺は実家に帰ってきていた。

 午前中は家族と過ごし、午後はリビングでグータラタイムだ。


 だが実家には妹がいる。

 サイドポニーテールがよく似合う最つよ中学生、愛菜だ。


「あーにーきー! ことよろろろー!」


 今日も愛菜はフルスロットだ。

 バイクなら勢い余って一回転しそうだぜ。


「ところでさぁ~。お正月といえば、かわいい妹に上げるものがあるんじゃない?」

「真心ならいつもやってるだろ」

「もっと実用性のあるもの」

「なんだろうなぁ」


 もちろん愛菜が何をおねだりしているのかわかっている。

 だがすぐに渡すと、速攻でガチャに課金しそうだからな。

 あえて焦らして、お金のありがたみを噛みしめてもらおう。

 ついでに愛菜の反応を楽しんでみよう。

 ふっふっふ……。


 ところが俺の思惑とは裏腹に、隣に座っていた女子高生がサクッと答えを言ってしまう。


「お年玉じゃない?」

「なるほど。それだ」

「知ってたくせに」

「タメを作ってたんだよ」

「お年玉だけに元気を集めてたんだ。私じゃないと見過ごしそうなネタだね」


 女子高生はいつもの調子で淡々と答えた。

 しかしタメを作ると言っただけで元気を集めるというネタだとわかるとか、さすがコミケ女子だ。直観力がハンパない。


 いや、そうじゃない……。

 俺が気になっているはそこじゃないんだ。


「ところで結衣花。どうしてここにいるんだ? ここ……、俺の実家なんだけど……」


 普段俺が住んでいる街と実家はそれほど離れていない。

 電車を使えば一時間もかからないだろう。

 しかし結衣花がここにいるのは、さすがにおかしいと思うのだが……。


 彼女はその疑問に対して、当たり前のように答えた。


「愛菜ちゃんが遊ぼうってさそってくれたの。ちなみにお兄さんは知らなかったかもだけど、私ここに何度か来てるんだよ」

「マジで!?」

「うん。お兄さんが使ってた部屋も見せてもらったことあるし。ベッドの下もチェック済みだよ。っていうか、なにもなくてがっかりだった」

「プライバシーを主張させて頂きたい」


 俺の戸惑いなんか露知らず、妹の愛菜はニッコニコの表情で俺に抱きついてきた。


「いいじゃん、いいじゃん。みんなで遊ぼうよ。そうそう兄貴……」

「なんだ?」

「ついでに結衣花さんと結婚しちゃいなよ。いひひ」

「ついでで結婚する奴はこの世におらんからな」


 ……やはり忘れていなかったか。

 愛菜は俺と結衣花をくっつける恋のアドバイザーを自負している。

 最初はとんでもないことを言い出すのではと心配していたが、案外と的確な作戦を考えてくる。


 ちなみに愛菜はまだ楓坂のことが苦手のようだ。


 愛菜は俺から離れると、今度は結衣花に抱きついた。


「結衣花さんは兄貴と結婚してもいいって思う?」

「そうだね。気が向いたらしてあげようかな」

「さっすが結衣花さん。器が違うね!」


 気が向いたらって……、なんでこんな場面でも俺は下に見られてるわけ……。


 ここで愛菜は何かを思い出し、ピクリと顔を上げた。


「あ! そうだ! 今日、アニメ映画が地上波でするんだった。録画予約しておかないと! すぐに戻るから待ってて!!」


 そう言って愛菜は自分の部屋に行ってしまった。


「相変わらず、愛菜は元気がいいな」

「というより、お兄さんに会えてはしゃいでいるんじゃない?」

「そこまで好かれているとは思わないんだが」

「こういうのってわかりにくいからね」


 急にリビングが静かになった。

 賑やかな人がいなくなると急に気まずくなるアレだ。

 どうしよう……。とにかく何でもいいから話題を振らないと……。


「あー。そういえば、結衣花の家も今日は親戚が集まっているんじゃないか?」

「うん、紺野お兄ちゃんも来てたよ」

「あの人も元気なんだろうな」


 ウルフカットが特徴の紺野さんを思い出して、俺は苦笑いをした。

 だが結衣花は想定外の話をし始める。


「でも今年はちょっと様子が違ってたけどね」

「というと?」

「前に言ったけど、私のお姉ちゃんと紺野お兄ちゃんって両想いなんだよ」

「そういえば、そうだったな」

「それで二人とも、今年は攻めに転じようとしていたんだけど……」

「ほぅ」

「二人とも、私を伝言板にしてくるからめんどくさくてさー。そしたらちょうどいいタイミングで愛菜ちゃんから連絡がきたから遊びに来たの」


 なるほど、そういうことか。

 いくら結衣花でも一月三日にここに来るのは不自然だと思ったが、どうやら本当の理由は二人の伝言役から逃げるためだったらしい。


「しかし紺野さんって女慣れしていると思ったけど、本命の前だとうまく立ち振る舞えないんだな」

「お姉ちゃんは毒舌に拍車がかかるし、本当に困っちゃうよ」


 結衣花は湯飲みに入ったお茶をゆっくりと飲み、ふぅ……と息を吐いた。


「ねぇ、お兄さん。どうしたらいいと思う?」

「……結衣花、……俺がその質問に答えられると思ったか?」

「ううん、全然。でも藁にもすがりたい気分だったから」

「ついに俺の存在は藁にまで落ちてしまったぜ……」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、恋する二人を応援しようとする笹宮。

だがやはり恋愛に関してはポンコツだった。


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る