1月1日(金曜日)元旦のあいさつ
「新年、明けましておめでとうございます」
年が明け、俺は結衣花と楓坂に挨拶をする。
すると彼女達も同じように挨拶を返してくれた。
昨日からゆかりさんと旦那さんは温泉旅行に出かけている。
しかし結衣花一人で留守番をさせるのは心配だとゆかりさんから相談を受けて、俺と楓坂は彼女の家に泊まることにした。
こたつの上にはおせちを始め、豪華な食事が並んでいる。
まさにお正月と言ったところか。
一人で新年を迎えてもなにも感動はないが、こうして結衣花たちとおせちを囲んで食事をすると不思議なやすらぎを感じる。
学生の頃は正月なんて退屈としか思わなかったが、俺の感性もずいぶんと変化しているようだ。
しみじみとしている俺をみた結衣花は、箸で黒豆をつまんだまま訊ねてくる。
「お兄さん。昨日はよく眠れた?」
「ああ。布団まで借りて悪いな」
「来客用だから気にしないで」
そう言って、結衣花は改めて黒豆を頬張る。
彼女は相変わらずのフラットテンションだが、ずいぶんと嬉しそうに黒豆を食べていた。
黒豆が好きなのだろうか。それとも俺と同じようにみんなで正月を過ごすのが楽しいのだろうか。
本音のところはわからないが、結衣花の機嫌がいいことは何よりだ。
「それにしても他人の家で正月を迎えるのは不思議な気分だな」
「いつもは実家に帰っているの?」
「いや。うちの家は元旦は外に出ず、人を招かないっていうしきたりがあるんだ。だから俺が帰る時もいつも二日目以降なんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
どうしてそんなしきたりがあるのかは知らないが、俺の家では昔からそうだった。
だが近所の人達は普通に出歩いているので、地域の風習というわけではないらしい。
親父は昔ながらの頑固者だから、へんなしきたりだけが残っているのだろう。
「さて、今日はどうする?」
「う~ん。私はお母さんたちが帰ってくるまで家にいたいかな。帰ってきた時に出迎えてあげたいし」
ゆかりさん達が旅行から帰ってくるなら夕方ごろか。
「楓坂は?」
「叔父様のところに挨拶へ行きますが、特別予定はありませんね」
楓坂の叔父、ザニー社の専務・旺飼さんはこの家のすぐ近くに住んでいる。
きっと楓坂は結衣花の両親に挨拶をした後、その足で旺飼さんのところへ行くつもりだろう。
「ということは、三人とも今日は予定なしか」
「せっかくだし、家でまったりしようよ」
「そうだな」
まったりか……。
社畜人間の俺がこんな贅沢な時間を味わえるとは。
結衣花はさっそく話題を振ってくる。
「じゃあ、まったりと……お兄さんの恥ずかしいエピソード暴露大会ということで」
「いぇ~い!」
「ぅおぉいッ!!」
結衣花のふざけた提案に楓坂が便乗したので、俺はすかさず抗議をした。
つーか、俺の恥ずかしいエピソードって誰得だ。
「新年早々、なんでそうなるんだよ」
「自然な流れじゃなかった?」
「不自然極まりなかったぜ」
おのれぇ……。清々しい元旦なのに、しょっぱなから俺をからかいに来やがった。
「大体、いきなりエピソードとか言われても思いつかねぇよ」
「うーん。じゃあ、元カノさんとどんなことをしたとかは?」
「……」
元カノ……。つまり雪代と付き合っていた頃の話をしろと言うのか。
何を話せと? デートの内容? 付き合う時にいったセリフ?
……違うな。……恥ずかしいエピソードって言ってるんだから、つまり……。あっちか!!
「いやいやいや……、それはダメだろ」
「いやいやいや。全然面白いからアリだって」
さらに俺の右側に座っていた楓坂も言う。
「そうですね。雪代さんとどこまで行ったのか、ぜひお聞きしたいですね。すごくすごく興味があります」
「女神スマイルで殺気を出すのをやめい」
やばいな……。これは無理やりにでも話を変えないと……。
「そ……そんなことより、テレビ見ようぜ」
「話題の変え方は年を開けてもへたくそだね」
「やっぱり正月と言えば格付けチェックだよな。楽しみだなぁ~」
「今、朝の七時だよ。それ夕方の番組でしょ」
参った……。もう全然話題をそらす方法が思いつかない。
俺が困っているのを察したのか、ここで楓坂が助け舟を出してくれる。
「ところで初詣はどうしますか?」
おぉ、さすが楓坂。
なんだかんだ言って、いざという時はサポートに回ってくれるんだよな。
おまえのそういうところ、ガチでありがたい。
「初詣か……。そうだな。俺は二人に合わせるぜ」
「じゃあ、明日なんてどうかしら」
楓坂の提案に、結衣花が同意する。
「私もそれでいいよ」
「オーケーだ。じゃあ、明日は初詣な」
「縁日、たのしみだなぁ」
「おごるの前提かよ」
■――あとがき――■
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。(o*。_。)oペコッ
次回、三人で初詣。
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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